「拳銃王」(1950米)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 西部一の早撃ちガンマンと噂されるリンゴは常に命を狙われていた。ある日、酒場で自分を撃とうとした若者を逆に撃ち殺し、彼の兄弟から追われる身となる。リンゴは別れた妻子に久しぶりに会うために彼女が住む町を訪れるのだが…。
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(レビュー) 老境に差し掛かった早撃ちガンマンの悲哀を抒情タップリに描いた異色の西部劇。
本作の主人公リンゴは、西部劇の古典的名作「駅馬車」(1939米)でJ・ウェインが演じたことでも知られるリンゴ・キッドが元ネタと思われる。リンゴ・キッドは実在したガンマンで、ジョニー・リンゴをモデルとしているが、彼を題材にした映画は数本製作されている。「OK牧場の決斗」(1957米)、タイトルもそのものずばり「リンゴ・キッド」(1966伊)等。但し、「OK牧場の決斗」は史実とは異なるキャラクターとなっており、主役のワイアット・アープの宿敵というフィクション性の強い登場の仕方となっている。
そんな西部劇ではお馴染みのリンゴであるが、ここでは中年に差し掛かり、闘いに疲弊した落日の男として描かれている。
これを名優グレゴリー・ペックが演じているのだが、早撃ちガンマンとは程遠いその容姿からして独特である。実は、この映画で彼が銃を抜くカットは一つも出てこない。酒場のシーンで若者を撃ち殺す序盤のシーンと、その直後に彼の三兄弟の追跡をかわすシーンで銃を抜いているが、実際には撃たれる側のカットがあるだけでリンゴが銃を撃つ瞬間は写していないのだ。
これは意図してそういう風にしているのだろう。リンゴに早撃ちガンマンのイメージをつけないように敢えてそうしているのだと思う。リンゴをただの”平凡な中年男”に仕立てるための演出の妙という気がした。
結果、ヒーローという仮面を剝ぎ取られた”平凡な中年男”の焦燥感や、終盤にかけて描かれる別れた妻子との交流場面には哀愁が生まれることになった。彼は無敵でもなんでもなく、人並みに恐怖も感じれば、愛情にも飢えている男なのだということが印象付けられるのだ。こういう西部劇の主人公も中々珍しい。そういう意味でも、今作は異色の西部劇となっている。
更に、本作はクライマックスも西部劇の常道を外している。ドラマ的に言えば当然3兄弟との銃撃戦が用意されているかと思うと、さにあらず。思わぬ伏兵が登場してリンゴの命は狙われてしまうのだ。このサプライズもまた本作を異色にしている。
尚、本作を観て「真昼の決闘」(1952米)を連想した。ゲイリー・クーパー扮する保安官が4人の悪漢と決闘するスリリングなリアルタイムドラマだったが、それとリンゴが馴染みの酒場で3兄弟を待つシチュエーションがよく似ている。
後から知ったが「真昼の決闘」も本作も上映時間は偶然にも同じ84分だった。