「フライト」(2012米)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 機長のウィトカーが操縦する旅客機が突如制御不能に陥り、急降下を始める。もはや墜落は避けられないと思われた瞬間、ウィトカーは驚異的な操縦テクニックで機体を不時着させた。犠牲者を最小限にとどめて多くの命を救うことに成功した彼は一夜にしてヒーローとなるのだが…。
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(レビュー) ヒーローになったパイロットの苦悩と葛藤に迫ったヒューマン・ドラマ。
ウィトカーはパイロットの腕は優れているが、アルコール依存症なのが玉に瑕で、事故が起きた日にも酒を飲んでいた。多くの人命を救ったことでヒーローに祭り上げられるが、このことがマスコミにバレたらその名声は一気に地に落ちてしまう。果たして彼の運命やいかに?というのが本ドラマの見所である。
これはいわば人間の二面性について描いたドラマだと思う。誰しも表と裏の顔を持っていると思う。本当の自分を曝け出せれば一番いいのだが、中々そうできないのが人間である。周囲の家族や友達、自らの保身のために、時に人は自分に嘘をつきながら生きているのだ。
本作のウィトカーは正にその瀬戸際に立たされる。つまり、裏の顔、アル中である自分をひた隠しにして英雄を”演じる”ことになるのだ。
物語はその葛藤を描くことをメインにしつつ、彼と別居中の家族との関係、航空会社組合が抱える問題、彼と馴染みのドラッグ中毒の女性のドラマ等が語られる。
正直、メインのドラマ以外については余り魅力的に思えず、2時間20分弱の上映時間が少し長く感じられてしまった。ウィトカーの葛藤に集中して作ればもっと濃密な映画にすることができたように思う。特にドラッグ中毒の女性のエピソードは、メインのドラマを盛り上げるのにそれほどうまく機能しているとは思えなかったのが残念である。
ただ、ウィトカーを演じたD・ワシントンの演技はやはり見応えがある。全編ほぼ彼が出ずっぱりな映画なため、彼の巧演が十分に堪能できる。特にクライマックスの公聴会での演技は白眉だった。
もう一つ面白かったのは、ジョン・グッドマン演じるドラッグディーラーの存在である。ウィトカーの悪友で、時に親身に世話を焼くのだが、これが中々の曲者である。これをグッドマンはコメディライクに造形にしており、陰鬱になりがちなドラマに一服の清涼剤のような役割をもたらしている。全体のシリアスさを壊しかねない演技ではあるかもしれないが、中々味のある演技を披露しており印象的だった。
監督はR・ゼメキス。もはやハリウッドにおける職人監督としては第一級の監督だと思う。最新テクノロジーに対する飽くなき追及はいかにもこの監督らしく、今回は序盤の旅客機の不時着シーンにかなりのVFX技術がつぎ込まれている。この迫力には驚かされるばかりだ。老いて益々健在という感じがした。