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フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊

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「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」(2021米)star4.gif
ジャンルコメディ・ジャンルサスペンス・ジャンルロマンス
(あらすじ)
 アメリカの新聞社のフランス支社が発行する雑誌「フレンチ・ディスパッチ」は、名物編集長アーサーが率いる一癖も二癖もある記者たちが書くバラエティに富んだ記事で世界中に愛されていた。ところが、アーサーが急死してしまう。彼の遺言によって雑誌は廃刊となり、アーサーの追悼号にして最終号が発行されることになる。

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(レビュー)
 人気雑誌の編集者たちの日常と、彼らが執筆した原稿を劇中劇という形で再現したオムニバス形式のコメディムービー。

 監督、脚本は独特の映像世界でファンを魅了するW・アンダーソン。
 整然と構成された構図と幾何学的なカメラワーク、ポップでパステル調な色彩設計、飄々とした表情の人物たち、シュールでシニカルな事象。正にW・アンダーソンにしか作りだせない世界観が構築されている。

 物語は「フレンチ・ディスパッチ」の編集部に集う人々の日常を起点に、彼らが書く原稿を再現した劇中劇で構成されている。編集部のシーンは軽めの描写に終始し、本作のメインとなるのは再現ドラマの方である。
 序盤に紹介される自転車のレポートをプロローグとして、全部で3つのエピソードが登場してくる。

 1話目は、殺人罪で収監された画家と美術商、絵のモデルとなった女性看守の物語である。いわゆる現代アートとは何ぞや?という皮肉が込められているような物語で、そこをW・アンダーソンが持ち前のアーティスティックな感性で描いている所が面白い。モノクロとカラーを使い分けた映像も刺激的である。

 2話目は、学生運動のリーダーと彼に恋する女性活動家、それを取材する記者の愛憎渦巻く関係を描いたロマンス劇である。記者の実体験という形で書かれる逸話だが、明らかに”五月革命”を想起させるあたりが興味深い。W・アンダーソンは当時の闘争を茶化すかのように軽妙に描きながら、革命は所詮「夢」に過ぎなかったということをメルヘンチックに描いている。

 また、当時のフランス映画界と言えばヌーベルヴァーグである。これまでW・アンダーソン作品でそれを意識したことはなかったが、今回のこのエピソードにはそれが強く感じられた。例えば、バスタブに入って煙草を咥えながらメモを書く活動家リーダーは、ジャン=リュック・ゴダールの「気狂いピエロ」(1965仏)のジャン=ポール・ベルモンドを連想させた。あるいは、彼に恋する女性活動家のコケティッシュな造形などはゴダールのミューズ、アンナ・カリーナにどことなく雰囲気が似ている。

 3話目は、美食家の警察署長とお抱えシェフが誘拐騒動に巻き込まれるアクション・コメディとなっている。本来であれば凄惨になってもおかしくない話だが、ユーモラスなアニメーションを交えながら屈託なく描いており、これまた唯一無二な快作となっている。
 特に、クライマックスとなるカーチェイス・シーンは、過去にも「グランド・ブタペスト・ホテル」(2013英独)で似たようなことをやっており、氏のサイレント映画に対する敬愛が感じられた。

 それぞれの話には関連性がなく完全に独立しているため、映画全体を通してのテーマやメッセージと言ったものは感じられない。そのため確かに物足りなさも残るが、軽い気持ちで観る分には十分に楽しめるエンタテインメントに仕上がっている。ヒューマン、ロマンス、コメディ、サスペンス、アクション。様々な要素をまんべんなく盛り込んでいるので、上映時間約100分という短さながら意外に濃密な映画体験をすることが出来た。画面の情報量の多さも特筆すべきで、2度、3度観て楽しめる映画ではないだろうか。

 キャスト陣も豪華で見応えがあった。ベニチオ・デル・トロ、レア・セデゥ、F・マクドーマンド、T・スウィントン、エイドリアン・ブロディ、T・シャラメ、ジェフリー・ライト、B・マーレイ、O・ウィルソン、クリストフ・ヴァルツ、M・アマルリック、W・デフォー、シアーシャ・ローナン、E・ノートン等々。主演級の俳優がこぞって参加している。中にはほとんど端役という扱いで実に勿体ない人もいるが、意外な所で登場してくるのでそれを見つけるのも楽しかろう。
[ 2022/02/07 00:06 ] ジャンルコメディ | TB(0) | CM(0)

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