「孤狼の血」(2017日)
ジャンルサスペンス・ジャンルアクション
(あらすじ) 昭和63年。広島の呉原では暴力団尾谷組と五十子会をバックに進出してきた新興組織加古村組が一触即発の状態で睨み合っていた。呉原東署に赴任してきたエリート新人刑事日岡は、暴力団との癒着など黒い噂が絶えないマル暴のベテラン刑事大上の下に配属される。そんな折、加古村組系列の経理担当者が失踪するという事件が発生する。二人はこの事件を担当することになるのだが…。
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(レビュー) ベストセラーの同名原作(未読)を
「凶悪」((2013日)、
「ロストパラダイス・イン・トーキョー」(2009日)の白石和彌が強烈なバイオレンス描写を交えながら描いた作品。
「仁義なき戦い」シリーズを意識したというだけあって、キャラクター造形や暴力演出が非常に劇画的である。そもそも冒頭の養豚場のシーンからして、いきなり豚の脱糞を真正面から見せるという”荒業”を出しており、本作のリアリティラインを早々に宣言していて潔い。あとはこのテイストに乗っていけるかどうかという問題であるが、個人的にはかなり楽しめた。
もちろん「仁義なき戦い」とは時代背景が異なるので、まったく同じというわけではない。本作は昭和末期のバブル時代で、世相も大分異なる。ただ、所々に入るナレーションや汗臭そうな警察署の雰囲気などは、明らかに「仁義なき戦い」シリーズを彷彿とさせる演出で、一周回って今改めてそれらが新鮮に観れた。
尚、同じジャンルということで、どうしても北野武監督の「アウトレイジ」シリーズと比較してしまいたくなるが、あちらはクールな作りに徹しているのに対して、こちらは非常に泥臭い。外見は何となく同系列の作品に見えるが、テイストは全く異なるので、その点でも興味深く観ることが出来た。
見所となるのはやはり各所の暴力シーンとなる。一部やりすぎとも思える場面もあるが、そこはそれ。「映画」=「見世物」に徹する姿勢が、いかにも昔ながらの活動屋の精神が感じられて嬉しくなった。尚、一番度肝を抜かされたのは”真珠”のシーンだった。画面にドアップで映し出される〇〇は作り物とは分かっていても衝撃的だった。
また、本作はベテラン刑事大上と新人刑事日岡がコンビを組んで事件の捜査に挑むバディ・ムービー的な面白さもある。二人のキャラクターの相違が要所を魅力的に見せており、これも作品の大きな見どころとなっている。
更に、日岡は大上も知らない”ある任務”を請け負っており、それが事件の捜査の”枷”となっていくところもドラマを大いに盛り上げている。「あぶない刑事」のような、よくある仲の良い名コンビというのとはまたちょっと違った危うさがあって非常にスリリングで目が離せなかった。
キャスト陣も多彩な顔触れがそろう。”濃さ”という点で言えば、邦画界の悪面を揃えた「アウトレイジ」には及ばないものの、意外なキャストが入っているところが本作の妙味か。例えば、江口洋介などはスマートな若頭役で中々適役だと思った。
そして、何と言っても日岡を演じた松坂桃李が良い。最初はいかにも頼りなさげな新人刑事という風貌だったのだが、後半にかけて徐々に逞しい面構えになっていく。そのギャップは、日岡という男の人生をドラマチックに体現しており、改めて良い若手俳優だなと思った。最初は大上演じる役所広司に押され気味という印象を持ったが、後半の鬼気迫る演技などは完全にそれを凌駕していた。