「アメリカン・ユートピア」(2020米)
ジャンル音楽・ジャンルドキュメンタリー
(あらすじ) デヴィッド・バーンのブロードウェイのショー『アメリカン・ユートピア』を収めたライブ映画。
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(レビュー) デヴィッド・バーンについてそれほど詳しく知っているわけではないが、彼が在籍していたバンド、トーキング・ヘッズのライブ映画「ストップ・メイキング・センス」(1984米)は観たことがある。その時の彼はまだ30代前半で、独特のダンスを踊りながら軽快な歌声を披露していた。それから40年近く経ち、60代になった彼は今でも精力的にソロ活動を行っている。そんな彼が2018年に発表したアルバムが「アメリカン・ユートピア」である。本作は、それを元にしたブロードウェイのショーである。
純粋にライブ・パフォーマンスのみに迫った構成で、小細工を一切排したことでパフォーマンスの熱量がダイレクトに伝わってきた。正統派なライブ映画という感じである。
監督は
「ブラック・クランズマン」(2018米)、
「ジャングル・フィーバー」(1991米)等のスパイク・リー。主に社会派的な作品を撮る黒人監督だが、そんな彼が白人であるデヴィッド・バーンと組んで本作を製作したことは意外である。
ただ、実際に映画を観てみると、なるほどと思えるところはある。実はスパイク・リーが好みそうなメッセージがあちこちから見て取れるのだ。
例えば、ステージ終盤でジャネール・モネイの「Hell You Talmbout」が歌われるが、この曲ではこれまで警官に殺害された黒人たちの名前が連呼される。スパイク・リーはこれをプロテストソングと言っており、おそらくこの辺りに強く惹かれるものがあったのかもしれない。
圧倒的なパフォーマンス、それ自体は実に楽しく観れるのだが、終盤に行くにつれてこうしたメッセージ性が浮かび上がってくるあたりは実にしたたかである。デヴィッド・バーン自身も本作をただのエンタメとして上演しているわけではないとハッキリと証言している。
もちろんエンタメとしても十分に完成された作品になっているので、デヴィッド・バーンのファンならずとも楽しめるだろう。生のブロードウェイの迫力には及ばないかもしれないが、それに近い体験はできるのではないかと思う。
本作は新型コロナが猛威を振る以前に撮影された作品である。したがって、マスクをしていない観客が楽しそうに歌って踊る様子が映し出されている。本来のライブとはこうあるべきなのだが、残念ながら今もってコロナは収束する気配はない。こうした日常が早く戻ってきて欲しいものである。