「透明人間」(2020米)
ジャンルサスペンス・ジャンルSF
(あらすじ) セシリアは天才科学者の恋人エイドリアンの束縛に恐怖を感じ、ある夜ついに彼の豪邸を抜け出して妹の恋人の家に身を隠した。その後、失意のエイドリアンは自殺し、莫大な財産の一部がセシリアに残される。ところが、安堵したのも束の間、彼女の周りで不可解な現象が起こり始める。
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(レビュー) 透明人間に付きまとわれる女性の恐怖を巧みなストーリテリングと緊張感みなぎるタッチで描いたSFホラー作品。
これまでにも何度も映画化されてきた透明人間だが、それを現代的なアプローチで描いた所が本作の新味である。
一番古い映画化は1933年の
「透明人間」(1933米)だが、それから90年近く経ち、今でもこのネタは古びない。同じユニバーサル映画で言えばドラキュラやフランケンシュタインといったモンスターが連想されるが、透明人間もそれらと並ぶアイコンになっていると言って良いだろう。
ただ、逆に言うと人が透明になるというネタ自体は変えようがないので、どこかに新機軸がないとマンネリ化してしまう。本作はそこのアレンジの仕方がとてもうまくいっていると思う。
その新機軸とは光学迷彩スーツだ。かつては遠い未来の発明品のように思えたが、昨今この技術は現実味を帯びている。そこに着目したのが、これまでの「透明人間」にないリアリティを生み出している。
また、夫のDVに耐えてきたヒロイン像も現代ならではの設定と言えよう。かつて「透明人間」と言えば、男性が主人公というのが相場が決まっていた。透明になって好きな女性を覗き見したり、嫌いな人間に嫌がらせをしたり等々。こうしたお約束は本作でも踏襲されている。しかし、今回は透明人間に襲われるヒロインの方に視座を持たせることによって、また別の角度から恐怖を表現することに成功している。
手垢のついた素材でも工夫を凝らせばまだまだ面白くすることができるということを、この映画は実践して見せてくれている。
監督、原案、脚本は
「アップグレード」(2018米)のリー・ワネル。盟友ジェームズ・ワンと共に手掛けた「ソウ」シリーズのヒットを足掛かりに着実にこの手のジャンル映画界を牽引するヒットメーカーに登り詰めている。
今回も演出は実に手練れていて、例えば序盤のセシリアの脱出シーンのスリリングさには見入ってしまった。無音の演出が素晴らしく、安易なショック音を使用しないのも好感が持てた。
あるいは、無人のキッチンを長々と映すショットも秀逸である。もしかしたらそこに透明人間がいるかもしれない…と思わせる不穏さが感じられ、ついつい画面に引き込まれてしまう。
全体的に低予算の映画なので派手なSFXは登場しない。しかし、そこを退屈させることなく見せきったリー・ワネルの手腕は見事と言えよう。
キャストの熱演も見逃せない。セシリアを演じたエリザベス・モスの神経症的な表情、終盤の勇ましい表情への変化も良かった。
製作には昨今この手のジャンル映画でヒットを連発しているジェイソン・ブラムが関わっている。もはや彼の名前は一種のブランド力になっていると言っていいだろう。