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ベルファスト

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「ベルファスト」(2021英)star4.gif
ジャンル青春ドラマ
(あらすじ)
 1969年、北アイルランドの首都ベルファスト。9歳の少年バディは、愛する家族と大好きな映画や音楽に囲まれ、楽しい日々を送っていた。ところがある日、暴徒化したプロテスタントの集団がカトリック系住民への攻撃を開始した。こうして同じ街に共存するプロテスタント系住民とカトリック系住民の対立は激しさを増していく。


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(レビュー)
 映画監督であり俳優でもあるケネス・ブラナーが自身の幼少時代を反映させて撮り上げた青春映画。

 ケネスの生い立ちが知れるという意味でも面白く観れるし、1969年に起こったベルファストの動乱を知るという意味でも興味深く観れる作品だった。

 尚、ここではプロテスタントとカトリックの宗派の対立が描かれているが、これはいつの時代でもどこでも起こりうる問題として置き換えられると思った。
 例えば、宗教とは少し違うが、ウクライナ侵攻における新ロシア派と新欧米派の争いなどは今まさに起こっていることであり、どうしても連想せずにいられない。かつてのボスニア紛争も然り。やはり隣人同士で殺し合いをする無慈悲な戦争だった。ルワンダで起こった大量虐殺事件にも同様のことは言えよう。今まで同じ地域に住んでいた隣人同士が、ある日突然敵同士になってしまうという状況。それがこの手の争いの残酷な所である。

 その苦しみ、憤りを本作はバディ少年と家族たちの姿を通して描いている。
 バディたちはプロテスタントなのだが、彼らは一連のカトリック弾圧運動には決して参加しない。そのせいで父親は窮地に追い込まれ、やがて家族はベルファストにいられなくなってしまう。まだ幼いバディにとっては正に青天の霹靂。この土地には友達やガールフレンドもいるし、大好きな祖父母だっている。彼らと別れて暮らすなんてできない…と思い悩むのだが、その無垢なる姿を見ていると、自然と胸が締め付けられてしまう。きっと幼きケネス少年も悲しい思いをしたに違いない。

 このように本筋だけをみてみると実に悲劇的なドラマである。
 ただ、ケネスはやはり稀代のエンターテイナーなのであろう。歴史の一幕を照射しつつも、各所に家族愛や隣人愛、そしてバディの日常をユーモラスなタッチで描くことで、全体的には肩の力を抜いて楽しく観れるように作られている。当時夢中になった映画やポップカルチャーも出てくるので、同世代には懐かしさも感じられるのではないだろうか。

 例えば、本作は基本的にモノクロ映画であるが、バディが映画館で観るカラー映画はカラーのまま再現されている。引用されるのは「恐竜100万年」(1966米)や「チキ・チキ・バン・バン」(1968英)といった娯楽作品群。それを家族揃って楽しそうに鑑賞する。その光景に、さながら「ニュー・シネマ・パラダイス」(1989伊仏)のような映画賛歌的趣が感じられた。

 他にも「スタートレック」や「サンダーバード」、「007」、コミック版「マイティ・ソー」等々、懐かしい名作の数々がノスタルジックに振り返られている。西部劇の傑作「真昼の決闘」(1952米)を伏線とした決闘シーンもユーモアたっぷりに再現されていて面白かった。

 このように過酷で険しい時代の中でも確かに幸福を実感できる瞬間があったということを、ケネス・ブラナーは暖かな眼差しで描いて見せている。誰が見ても楽しめる普遍的な青春映画に昇華されており、このあたりの料理の仕方は実に見事というほかない。

 ただ、全体的に薄味&コンパクトにまとめられており、少々食い足りなさも覚えたのも事実だ。
 例えば、自らの幼少時代を美しいモノクロ映像で綴ったアルフォンソ・キュアロン監督作の「ROMA/ローマ」(2018メキシコ)は、どうしても作品のモティーフやスタイルから比較してしまいたくなる。「ROMA/ローマ」と比べると本作の方が圧倒的に観やすいことは確かだが、映像やドラマ的なケレンミやダイナミズムは遠く及ばない。どうしてもこちらの方が物語が”小ぶり”な分、小粒な作品に感じてしまうのだ。

 一方、キャストでは祖母役のジュディ・デンチ、祖父役のキアラン・ハインズの功演が光っていた。全体的に軽妙なトーンが続く中、彼らの演技が作品に一定の重みを与えていることは間違いない。特に、ラストのジュディ・デンチのクローズアップは忘れがたいものがある。
[ 2022/04/02 00:13 ] ジャンル青春ドラマ | TB(0) | CM(0)

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