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アネット

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「アネット」(2021仏独ベルギー)星3
ジャンル音楽・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 挑発的なスタイルのスタンダップ・コメディアン、ヘンリーは、国際的な人気オペラ歌手アンと情熱的な恋に落ち結婚した。しかし、2人の間に娘アネットが誕生すると結婚生活は徐々に狂い始めていく。



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(レビュー)
 フランスの鬼才レオス・カラックスの「ホーリー・モータズ」(2012仏)以来、約9年ぶりとなる新作。アメリカの兄弟バンド、スパークスの原案を華麗な映像と寓話的なタッチで描いたロックオペラ・ミュージカルである。

 カラックスがミュージカルを撮るというと少し意外な感じがするが、「ホーリー・モーターズ」ではカイリー・ミノーグを迎えて短いミュージカル・シーンを撮っていたし、「汚れた血」(1986仏)ではデヴィッド・ボウイの「モダン・ラヴ」をバックに多分にミュージカル映画的な疾走シーンを描出していた。そこから考えると、今回のミュージカル映画は決して意外ではない気がする。

 ただ、期待が大きかったのだろう。結論から言うと、今回の映画は余り満足のいくものではなかった。ミュージカルならではのカタルシスがあまりなく、これならば普通にドラマとして撮った方が見応えのあるものになったのではないか…という気がしてしまった。

 現実から虚構への鮮やかな導入部は確かに素晴らしいものがあった。アンの公演からバイクのタンデムに繋がるシークエンスにも興奮させられた。しかし、以降はこれらを超えるミュージカルならではのカタルシスが感じられなかった。映画のポスターにもなっている嵐のヨットのシーンも、寓話性を強調した実験志向の強い演出で面白かったが、どうせやるのであれば更なるダイナミズムを追求してほしかった。

 カラックスの作家的資質を考えれば、ミュージカル映画は合っているような気がするのだが、現実にはそうとも言えないようだ。確かに他とは一味違った独特の作品になっているが、過去の傑作と呼ばれるミュージカル映画を観ている自分からすると、どうにも中途半端に感じられてしまう。

 音楽を担当したスパークスの楽曲が余り耳に入ってこないというのも残念である。長い間カルト的な支持を得ているバンドであることは承知している。近年の彼らのサウンドはポップスの中にバロック風味が加味されることで一種独特な世界観が構築されている。その独特のサウンドが映像に合わさることで相乗効果的に盛り上がればいいのだが、残念ながらそこまでの高揚感は得られなかった。

 このようにミュージカル映画として見た場合、色々と物足りなさを感じてしまう作品だった。

 ただ、随所に毒気とユーモア、皮肉が込められており、カラックスにしか撮れない作品になっていることは確かである。その意味ではまずまず楽しめた。

 例えば、アネットを人形にしたギミックは面白い。彼女の存在はビジュアル的にもドラマ的にも大変ミステリアスで、そこに込められた意味については深く考察できる。自分が想像するに、それはアネットの神童性、更に言えばヘンリーとアンにとっての実在感の薄さ、不完全な親愛を表現しているのだと思う。ラストの人形の変容に鳥肌が立ってしまった。

 また、凋落していくヘンリーと成功を収めていくアンの対比にはショウビズ界の残酷性が感じられた。この図式自体、決して目新しいものではないが手堅く描かれている。

 アンの辿る顛末にもドラマチックさが感じられた。すでに舞台上でそのことが示唆されていたことに気付かされ運命の皮肉を感じずにいられない。

 キャスト陣では、ヘンリーを演じたアダム・ドライヴァーの力演が印象に残った。挑発的なスタイルのスタンダップ・コメディアンということで、何かと聴衆の攻撃に晒されやすいのだが、表舞台での笑いと裏での苦悩。その狭間で疲弊していく姿に引き込まれた。
 とりわけその巧演振りが光っていたのは中盤。ステージ上でアンをくすぐり殺したと息巻いて観客から非難の嵐を受けるシーンである。ここで彼は独壇場の一人芝居を見せており、改めてその芸達者ぶりに感服してしまった。
[ 2022/04/17 00:57 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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