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フルートベール駅で

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「フルートベール駅で」(2018米)star4.gif
ジャンル人間ドラマ・ジャンル社会派
(あらすじ)
 2008年12月31日、オスカーは恋人ソフィーナと幼い娘タチアナに囲まれながら幸せな朝を迎える。前科もある彼だが、根は優しい青年だった。今度こそ良き夫、良き父親になろうと心に誓うオスカーだったが…。


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(レビュー)
 黒人青年が白人警官に射殺された事件、”オスカー・グラント三世射殺事件”を元にした実録映画。

 自分は本作を観るまで、この事件のことをまったく知らなかった。ただ、アメリカで黒人が警官から暴行を受けるという事件は、これまでにも何度かニュースなどを見て知っている。例えば、1992年に起こったロサンゼルス暴動などは大きく報じられたと記憶している。黒人に対する差別意識が強いアメリカでは、こうした事件は今でも後を絶たないのである。

 映画は、事件現場を撮影した記録映像から始まる。サンフランシスコにあるフルートベール駅で複数の黒人青年が白人警官に取り囲まれて殴る蹴るの暴行を受けている映像はかなり衝撃的だ。そして、突然鳴り響く発砲音で映像はブラックアウトする。おそらく電車に乗っていた一般人が携帯電話で撮影した動画だろう。その生々しい映像に、作り手側の本作にかける強い覚悟みたいなものが感じられた。

 その後、物語は時間をさかのぼり、事件が起こった日の朝から始まる。殺された青年オスカーの一日を追う日常描写は、後の事件のことを考えると実に尊いものに映る。恋人と娘との温もりに満ちたやり取り。母親の誕生日に駆け付けて楽しいひと時を過ごす一家だんらんの光景。何気ない日常風景だが、その中からオスカーのキャラクターも巧みに醸造されている。

 オスカーはかつてマリファナの売人をしていて刑務所に入っていた過去がある。しかし、出所後は愛する家族のために更生の道を歩もうと決心する。困っている人を見ると助けてやる良心の持ち主でもある。そんな彼が理不尽な死を遂げたことを考えると、実にやるせない思いに駆られる。

 監督、脚本は本作が長編デビューとなるライアン・クーグラ。オスカーを演じるのはマイケル・B・ジョーダン。この二人は本作をきっかけにして、後に「クリード チャンプを継ぐ男」(2015米)で大ヒットを放つことになる。更にマーベルスタジオに招かれて「ブラックパンサー」(2018米)も製作することになった。そう考えると、本作は彼らにとって記念碑的作品と言えるだろう。

 ライアン監督の演出は実に軽快で初監督作とは思えぬ手腕を見せている。特に、オスカーと娘の幸福な一場面を、今わの際で挿入する演出には自然と涙があふれてしまった。終始オスカーの視座で展開される本作において、それは彼が最後に観た走馬灯のようなものなのだろう。

 ただ、一つ疑問に思ったのは、今回の脚本を書くにあたって、どこまで真実性が徹底されているのかという点である。これは実話の映画化の際、常に付きまとう疑問だが、それが本作にも若干感じられた。wikiによれば、ライアン監督は関係者から話を聞いて書き上げたらしいが、映画を観る限り幾つかのエピソードで創作と思しきものが見受けられる。

 例えば、オスカーが車にひかれた野良犬を看取るシーン。これは後の自身の運命を暗示しているかのようなエピソードなのだが、実際にこのようなことが本当にあったのだろうか?現場を目撃した第三者がいるならまだしも、そうした人物もいないようである。やや作りすぎな感じは否めない。

 もちろん映画はエンタテインメントの素養もあってしかるべきなので、多少の脚色はあっても良いと思う。ただ、もしこれが創作だとしたら少しやりすぎという感じがしてしまった。

 マイケル・B・ジョーダンの造形は素晴らしかった。善良さと不良性を併せ持った難役を見事に体現している。
 また、オスカーの母親を演じたオクタヴィア・スペンサーの巧演も見逃せない。すでに大ベテランの域に達しているだけあってさすがの貫禄を見せている。特に、終盤の堂々とした演技は大きな見せ場である。
[ 2022/05/28 00:13 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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