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彼女がその名を知らない鳥たち

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「彼女がその名を知らない鳥たち」(2017日)star4.gif
ジャンルサスペンス・ジャンルロマンス
(あらすじ)
 8年前に別れた男・黒崎のことが忘れられない十和子は、現在は年上の中年男・陣治と仕方なく一緒に暮らしている。不潔で下品な陣治に嫌悪感を抱きつつも、彼の少ない稼ぎを当てに怠惰な日々を送る十和子。ある日、妻子持ちの男・水島と出会い彼との情事に溺れていくのだが…。


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(レビュー)
 年の離れた中年男と同棲する女が衝撃の事実に翻弄されていくロマンスサスペンス。ベストセラーの同名小説(未読)を「凶悪」(2013日)「孤狼の血」(2017日)「ロストパラダイス・イン・トーキョー」(2009日)の白石和彌が映画化した作品である。

 過去の男を引きずりながらダメ男・陣治と同棲する十和子の怠惰な日常が冒頭から延々と描かれるため、前半はやや間延びした展開である。しかし、中盤で黒崎の失踪が分かると俄然ミステリー色が出てきて面白く観れた。黒崎の失踪に十和子は何か関係しているのか?彼女を影ながら見守る陣治の不可解な行動にどんな意味があるのか?そういったところに注目しながら最後まで興味深く観れた。

 それにしても、十和子も陣治もウジウジとした性格で、観てて決して共感を得られるキャラとは言い難い。そのあたりで本作は確実に観る人を選ぶ作品のように思う。
 ただ、リアリティということで言えば、こういった人たちは現実に居そうである。失恋の傷心を引きづる十和子は仕事をするでもなく、建築現場で働く陣治から小遣いをもらいながら、ストレス発散と言わんばかりにあちこちで迷惑なクレームをつけて回っている。実に陰気でネガティブなヒロインである。おそらく現実にいたら大層迷惑だと思うが、ドラマとしてみれば中々面白いキャラクターだ。

 一方で、十和子に甲斐甲斐しく仕える中年男・陣治も卑小極まりない性格で、これまた共感しずらいキャラである。なんでも十和子の言いなりになる情けなさは、観ててどんどん気の毒になっていく。しかし、それでも彼女から離れられない彼は心底、彼女に惚れこんでいるのだろう。もはや病的と言っても良いほどだが、逆にここまで芯を通されると感動的ですらある。

 後半から頭角を表してくるサスペンスで、彼らのこの関係性は徐々に変化していく。本作はこのあたりが実に面白く観れる。クライマックスで、それまでの伏線が怒涛のように回収され、二人の関係が完全にひっくり返るのだが、そこに自分は只ならぬ高揚感を覚えた。それまでのネガティブな感情を全て払拭してくれたような、そんな爽快感が得られた。

 唯一、不満があるとすれば、タイトルの「彼女がその名を知らない鳥たち」の意味が今一つよくわからなかったことである。おそらくラストシーンにその意味が込められているのだろうが、何せ唐突過ぎて理解が追い付かない。どうやら原作ではそのあたりの詳しい描写が書かれているらしいのだが、ここは重要な部分なので、ぜひ脚本の中に落とし込んで欲しかった。
 また、サスペンスとして厳しく観てしまうと、ミスリードが今一つ弱いというのもやや物足りなかった。

 尚、クライマックス以外にも白石監督の演出で幾つか印象に残ったシーンがあったので付記しておきたい。
 一つは、電車の中で十和子と陣治が二人きりになるシーンである。それまで満員電車だったはずが、いつの間にかたった二人だけになるという少しシュールな演出だが、孤独な二人の心象を見事に表現していると思った。
 もう一つは、十和子が携帯電話で黒崎に電話をかけるシーンである。暗い現実から過去の輝かしい思い出への場面転換は劇的である。おそらくCGを使用していると思うのだが、背景の部屋の壁が倒れて、その奥から海辺の風景が浩々と表れ、まるで寺山修司の「田園に死す」(1974日)を想起させる衝撃だった。
 白石和彌監督は普段はこうした超然とした演出をしない作家だったので意外である。
[ 2022/07/06 00:11 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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