「スナイパー・ストリート バグダッド狙撃指令」(2019イラクカタール)
ジャンル戦争・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 米軍占領下のイラク・バグダッド。ハイファ通りはアルカイダの残党による無差別な銃撃で荒廃していた。アーメッドは刑務所の拷問を密かに録画したビデオを持って、恋人をアメリカに連れて行こうとしていた。ところが彼女の家の前で狙撃兵サラームに銃撃されてしまう。
ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) 邦題だけを見るとアクション映画と勘違いされそうだが、実際には大変地味な作品である。
しかも、狙撃兵サラームの心情を解き明かすシナリオはやや舌っ足らずで、彼の目的や置かれている状況、周囲の人間関係が不明瞭なため大変難解な映画になってしまっている。ある程度、当時のバグダッドの状況を頭に入れてから観ることをお勧めする。最低限、アメリカ軍が介入したイラク紛争についての予備知識くらいは知っておいた方がいいだろう。
そんな地味で難解な映画であるが、演出自体は結構しっかりしていて見応えを感じた。
狙撃物の映画と言えば色々と思いつく。最近ではクリント・イーストウッド監督の
「アメリカン・スナイパー」(2015米)やトム・ベレンジャー主演の人気シリーズ「山猫は眠らない」、第2次世界大戦の独ソ戦を舞台にした「スターリングラード」(2000米独英アイルランド)等が思い浮かぶ。この手の作品は、緊張感みなぎるシチュエーション作りと監督の演出力。これが作品の出来を大きく左右すると言っても過言ではない。そういう意味では、本作は中々健闘していると言える。
顔にたかる蠅をまったく気にすることなく照準を定めるサラームのアップや、照準器越しにターゲット見据える一人称視点のカット、時折挿入されるヘリや銃撃戦といった臨場感をもたらす音の演出等。中々の緊張感を創り出している。
また、彼に銃撃をやめるように説得にやって来る女性キャラも、物語にアクセントをもたらすという意味では中々効果的である。一人は彼が恋焦がれている若い女性、もう一人は彼の組織のリーダーの妻と思しき女性である。彼女たちのやり取りは物語をうまく盛り上げていた。
更に、サラームが幻視する少年の姿は、全体のリアリズムを考えると少し浮いたトーンではあるものの、彼の哀愁を感じさせるという意味では実に上手い演出だと思った。おそらくその少年は彼の幼少時代の幻なのだろう。そこに彼の悲しき過去が色々と想像できる。
このようにスナイパー物としての緊張感は十分に堪能できるし、戦争の悲劇というのも真摯に発せられており、中々骨を持った作品となっている。
ただ、繰り返しになるが、サラームの心情や彼の置かれてる状況が分かりにくい面が多々あり、果たしてどれほどの観客がこの物語を完全に理解し得るだろうか…という疑問は残る。そこがもう少しクリアになれば中々の好編になっていたのではないかと惜しまれる。