「神々の山嶺」(2021仏ルクセンブルグ)
ジャンルアニメ・ジャンルサスペンス・ジャンルアクション
(あらすじ) エベレスト登山隊を取材するためネパールに来ていた山岳カメラマン深町は、何年も消息を絶っていた孤高の天才クライマー羽生を目撃する。彼は英国の登山家マロリーの遺品であるカメラを手にしていた。登山史上最大の謎の答えが見つかるかもしれないそのカメラを追う深町は、羽生の過去を探っていくのだが…。
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(レビュー) 夢枕獏の小説を谷口ジローが漫画化し、それをフランスでアニメーション映画にしたという、ちょっと変わった作品である。
谷口ジローの作品はフランスでは絶大な人気があるので、その関係から本作も製作されたのだろう。緻密でリアルな描写が持ち味の氏の漫画は、日本はもとより海外でも評価が高い。
登山の際によく言われる「なぜ山に登るのか?そこに山があるからだ。」とは本作にも登場するジョージ・マロリーの有名な言葉である。本作を観終わった感想も正にこれに尽きるかもしれない。
正直な所、私のような登山に何の興味もない人間からすれば、どうしてそこまでして危険な山に登りたがるのか理解できない。しかし、羽生もマロリーも、そして羽生のライバル長谷も、山の魅力に取りつかれた彼等からすれば、それこそが”生きがい”であり”人生”なのだろう。だから、「どうして山に登りたがるのか?」と問われれば「そこに山があるからだ。」としか答えようがないのだと思う。「あなたはどうして生きるのか?」と聞かれるのと一緒なのかもしれない。
物語は二つのミステリーで構成されている。一つは行方不明になった羽生の足取りを探るミステリー。もう一つはマロリーのカメラに残された写真を巡るミステリーである。
本作でメインとなるのは前者の方で、深町が羽生の足跡を追いながら、彼の登山にかけるストイックな思いが解き明かされていく。そこには壮絶な過去があり、羽生がどうしてエベレスト登頂に挑むのか?その理由も分かってくる。
後者に関しては、深町と羽生の登山に対する見解の相違を表しており、そこについては終盤でなるほどと思える回答が示されていた。
ただ、最後は今一つ釈然としない終わり方で、個人的には随分とあっさりとした印象を持ってしまった。深町は羽生の登山に対する考え方を一生理解できないものとばかり思っていたので、このラストは少し意外であった。
アニメーションとしてのクオリティは中々のものである。
中でも見所となるのは、やはりスリリングでリアルな登山描写である。おそらく実写ではここまでの臨場感溢れるシーンは表現できなかったのではないだろうか。天候が急変する雪山の怖さも、アニメーションならではの大胆な演出で表現されていて非常にエキサイティングだった。
また、ダイナミックな雪山風景は、スクリーンでこそ味わいたい迫力に満ちている。
聞けば、製作期間7年ということだから、堂々たる大作と言えよう。これだけの時間と手間暇をかけて作られた作品というのも中々にないように思う。そういう意味でも、作り手たちの執念と創意には感服するしかない。