「シエラ・デ・コブレの幽霊」(1963米)
ジャンルホラー・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 建築家のオリオンは、心霊調査員というもうひとつの顔を持っていた。ある日、盲目の資産家ヘンリーから死んだはずの母親から毎晩電話がかかってくるので調査して欲しいという依頼が入る。調査のためヘンリーの妻ヴィヴィアと共に母親が眠る納骨堂に行くと、そばには電話が置いてあった。
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(レビュー) 長年幻の映画と言われていた作品で、これまで日本ではテレビ放映されたのみ。本国に至っては劇場未公開で完全にお蔵入りとなっていた映画である。それが先頃、amazonプライムで公開されていたので視聴してみた。
尚、ウィキによれば現存するフィルムは世界でたった2本のみで、そのうちの1本は日本の映画評論家、添野知世氏が保管しているということである。そちらは自主興行という形でこれまで数度上映会が行われたということである。今回の配信はそれとは異なるヴァージョンのようである。
本作は、元々はテレビシリーズのために作られたパイロット・フィルムを元にしており、それを再編集してリリースされたということなので、異なるヴァージョンがあっても何の不思議もない。
さて、そんな曰く付きの作品であるが、実際に観てみたところ、巷で言われているほど怖い映画ではなかった。人によって余りに怖くてお蔵入りになった…なんて言う人もいるが、当時はそうだったとしても今となってはそこまでの怖さはない。
もっとも、幽霊がアップになって迫って来るカットはかなり不気味で、このインパクトは確かに凄まじい。モノクロ反転して合成しただけのように見えるのだが、たったそれだけなのに異様なビジュアルを創出している。また、甲高く泣き叫ぶ幽霊の声が不気味で、これも耳に不快な印象を植え付ける。きっと子供の時に見たらトラウマになっていたかもしれない。
物語はやや複雑で、オリオンがヘンリーの母親の幽霊を突き止める先で、もう一つの過去の凄惨な事件が判明するという謎解き探偵物となっている。それがタイトルにもなっている”シエラ・デ・コブレの幽霊”に結び付くわけだが、全体の構成は中々良く出来ていると思った。
監督、脚本のジョセフ・ステファノはA・ヒッチコックの「サイコ」(1960米)の脚本を手掛けた才人で、その手腕がここでも堅実に出ている。
ただ、ヴィヴィアンと彼女の母親の目的に今一つ釈然としないものを感じたり、オリオンとの因縁めいた関係がご都合主義に見えなくもない。また、オリオンが海岸でナンパする美女が物語に何の関係もないのもただの尺稼ぎにしか思えなかった。
陰影を凝らした撮影は見事だったと思う。本作には二人のカメラマンがクレジットされている。ウィリアム・A・フレイカーとコンラッド・L・ホールである。前者は「ミスタ・グッドバーを探して」(1977米)や「ローズマリーの赤ちゃん」(1968米)、「ブリット」(1968米)等を手掛けた名手である。後者も「アメリカン・ビューティー」(1999米)や「イナゴの日」(1975米)、「明日に向かって撃て!」(1967米)等を手掛けた名カメラマンである。二人とも後年のフィルモグラフィーは錚々たるもので、その出自が確認できるという意味でも一見の価値がある作品ではないかと思う。