「人生、ここにあり!」(2008伊)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルコメディ・ジャンル社会派
(あらすじ) 1983年、ミラノ。正義感の強い労働組合員のネッロは、異端すぎたために反発を招き、新たな組合に異動させられてしまう。そこは、廃止された精神病院から出てきた元患者たちで構成された協同組合だった。彼はそこで建築現場の“床貼り”を請け負う事業を立ち上げるのだが…。
ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) 精神病患者というデリケートな題材をカラッとした明るいトーンで描いており、誰が見ても楽しめる良作になっている。
そんなに上手くいくはずないだろうと思う所が何度かあったが、驚くべきことに本作は実話を元にしているそうである。映画の最後にテロップで出てくるが、イタリアでは1978年に精神病院廃絶法が制定され、患者たちは入院治療ではなく地域の精神保健サービス機関で予防や治療を受けることになったそうなのである。日本ではちょっと考えられないことであるが、患者の自立支援を目指した制度として、これは中々画期的なことではないかと思う。
映画は開幕からスピーディーなテンポで始まる。異様な速さに観てて戸惑いを覚えてしまったが、これ以降は落ち着いたテンポで物語が紡がれていく。ネッロが置かれている状況、彼が面倒を見ることになる個性的な患者たちの紹介。夫々に手際よく処理されていて自然と物語に入り込むことが出来た。
後半からジージョという患者のロマンスが描かれるが、ここから映画は少しシリアスに傾倒していく。このエピソードは精神病患者が一般社会に適応していくことの難しさを如実に物語っているように思う。よくある話と言えば、よくある話だが、ジージョの身になると実に居たたまれない気持ちにさせられた。
他にも本作には様々な個性的なキャラクターが登場してくるが、いずれも愛着感が湧くように造形されており、製作サイドの良心が感じられた。
ただ、これは誰もが楽しめる大衆娯楽という割り切りがあった上での話であって、実際にはここでは描かれていないようなシビアな面も相当にあったのだろうと想像される。実話ベースということを併せ考えれば、尚更そう思えてくる。例えば、「カッコーの巣の上で」(1975米)や
「ショック集団」(1963米)のような精神病患者のネガティブな面は人情噺の前に完全に漂白されてしまっている。したがって、観る人によっては甘ったるさを覚える人がいても当然という気がした。
床張り事業の一方で、本作はネッロと恋人の関係を描くドラマも用意されている。こちらはサイドストーリー的な扱いだが、メインのドラマ同様、ハートウォーミングな決着を迎え、後味は中々に良かった。