「ベルファスト71」(2014英)
ジャンル戦争・ジャンルアクション
(あらすじ) 1971年、北アイルランドのベルファスト。そこではアイルランドの統一を目指すカトリック系住民と、英国との連合維持を望むプロテスタント系住民の間で争いが繰り広げられていた。英国軍の新兵ゲイリーは、治安維持を目的に混沌のベルファストへ送り込まれるのだが…。
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(レビュー) 先頃見たケネス・ブラナー監督の自伝的作品
「ベルファスト」(2021英)でも描かれていた騒乱。いわゆる北アイルランド紛争を舞台にした映画である。
この騒乱は領土問題や宗教対立など大変根深い問題をはらんでおり、様々な組織が入り乱れた内乱だった。そうした知識をある程度、頭に入れてから本作を観た方が良いだろう。「ベルファスト」ではカトリック系組織とプロテスタント系組織の対立という描かれ方をしていたが、本作を観るとそんなに単純な争いでもないということが分かる。カトリック系のIRAの中にも穏健派と過激派がいて、夫々に主義主張が微妙に異なるということが分かる。
映画は、紛争の地と化したベルファストに送り込まれた英国軍兵士ゲイリーの視座で進行する。
治安維持の任務に就いた彼は、市民の襲撃を受けた仲間を助けようとしてIRAのゲリラに命を狙われるようになる。果たしてゲイリーは無事にベルファストを脱出することが出来るどうか…というのが物語の大筋である。
サスペンスとアクションでグイグイと惹きつける剛直な演出が冴えわたり、中々に見応えの感じられる作品だった。負傷したゲイリーを介抱する医師の登場など、物語に一定の抒情性をもたらすエピソードにも好感を持てた。
ただ、様々な人物が入り乱れるベルファストの状況は多少分かりづらい面があり、史実を知らないまま鑑賞すると訳が分からないということになってしまう。IRA内には裏切者やスパイもいて、敵か味方か判然としない者たちもいる。そのあたりをもう少し分かりやすく描いてくれると、本作はもっと入り込みやすい作品になったかもしれない。
演出は全体的にドキュメンタリー・タッチでまとめられており、逃走するゲイリーの切迫感を上手く表現していると思った。とりわけ、序盤の市民の暴動シーンは、現場の混乱ぶりをスリリングに描いており白眉の出来栄えである。
また、大人顔負けの生意気な少年兵の登場など、ユーモラスな演出も冴えている。時限爆弾を巡って繰り広げられる一件にもブラック・ユーモアを感じる。
一方、細かいところで少し気になる箇所もあって、例えば序盤の市民暴動後のゲイリーの逃走シーンはラフなカメラワークが大変見づらかった。敢えて臨場感を出そうとしているのだろうが、はっきり言ってアマチュアレベルの撮影である。また、ゲイリーを介抱する医師とその娘の登場の仕方は、もう一工夫欲しい所である。戒厳令が出てもおかしくない夜の街にフラリと現れるというのは、どう考えても不自然過ぎる。
キャストではゲイリーを演じたジャック・オコンネルの熱演が印象に残った。
また、近年
「エターナルズ」(2021米)や
「ダンケルク」(2017米)といった大作で目覚ましい活躍を見せている若手俳優ビリー・コーガンがIRAの青年兵役として登場してくる。独特なナイーブな佇まいがこの役所に説得力をもたらしており、その顛末も含め印象に残った。