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よこがお

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「よこがお」(2019日仏)star4.gif
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 訪問看護師の市子は、大石家の祖母を献身的に介護し、孫娘である基子から慕われ介護福祉士になるための勉強を教えてやっていた。ある日、基子の妹サキが行方不明になる。1週間後に無事に保護されるが、彼女を誘拐した犯人は意外な人物であった。

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(レビュー)
 一つの事件をきっかけに不幸のどん底に落ちていく女性看護師の運命をスリリングに描いた愛憎ドラマ。

 何と言っても市子を演じた筒井真理子の巧演が素晴らしい。普段は朗らかな表情を貫いているが、ふとした瞬間に見せる冷徹な眼差しにゾッとするような怖さが感じられた。事件の加害者でありながら同時に被害者でもあるという複雑な立場を絶妙に演じている。正に独壇場の活躍と言って良いだろう。

 特に終盤、婚約中の吹越満に別れを告げた後に落書きをされた車を洗車しに行く一連のシークエンスは見応えがあった。悲劇のヒロインから一転、復讐に燃える女の情念を醸しつつハードボイルドなヒロインへと見事に豹変させている。

 他に、早朝のゴミ出しで基子の彼氏である池松壮亮と再会するシーンも息を呑むような変貌ぶりを見せている。別れ際における冷酷な表情への変化にゾワゾワするような怖さが感じられた。

 このように筒井真理子の演技は観ているこちらの感情を常に揺さぶってくる。彼女なくして本作は成り立たなかっただろう。そういう意味では筒井真理子の演技がこの映画の魅力を底支えしていると言っても過言ではない。

 また、その演技を引き出した監督、脚本の深田晃司の演出力も見事と言うべきである。
 そこかしこに不穏な空気を感じさせる画面作りは、過去作「淵に立つ」(2016日)でも顕著に見られたものであるが、今回もその演出は冴えわたっている。

 例えば、タイトル画面の煙草の煙などはその最たるもので、これから起こる”事件”を予感させるものである。あるいは、基子が市子と手をつなぐクローズアップは、二人の関係に友情以上のものを匂わせる絶妙な映像演出でシンプルながら印象深い。また、終盤の横断歩道のシーンもスリリングで見入ってしまった。

 更に細かいところで言えば、サキが姉の基子のことを「ほんとガキ」とボソッと呟くところにはギョッとするような驚きがあった。それまで仲が良さそうに見えていた姉妹に、ほんの一瞬だけ”闇”を感じた瞬間である。こうした人間の本性に隠された”闇”を描かせると、深田監督は本当に上手い。

 一方で、少し不自然に思う演出もあって、例えば市子が夢の中で犬の真似をして吼えるシーンがある。これなどは奇をてらったのかもしれないが、シュールすぎて苦笑するしかなかった。
 市子が基子の幻影と対峙するシーンも面白いと思うのだが、本筋に必要かどうかというとそこまでの必然性が感じられなく、むしろ全体のリアリズムから浮いてしまっている印象を持った。
 こういう演出は深田監督の一つの特徴なのだが、このあたりは好みが分かれる所かもしれない。

 ちなみに、クラブのシーンが余りにも適当に撮っているのが丸分かりで、これもいただけなかった。

 それにしても、今回の誘拐事件のそもそもきっかけが、幼少期に受けた性的トラウマだったというのは、実に罪作りな話であると思わされる。動物園のサイが勃起していたという話や基子が幼少期に芽生えさせた性癖にしてもそうだが、この物語にはどこかセクシャルなメッセージが隠されているような気がして、観終わった後に色々と考えさせられた。鑑賞後にモヤモヤとした感情がくすぶる。通俗的な愛憎ドラマと一線を画した複雑さを持ったおり、一筋縄ではいかない作品で見応えを感じる。
[ 2022/09/18 00:50 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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