「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」(2019仏ベルギー)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) 世界的ベストセラー『デダリュス』3部作の完結編の出版権を獲得した出版社社長エリック・アングストロームは、世界同時出版することを大々的に発表する。さっそく9名の翻訳者が選ばれフランスの豪邸に集められた。翻訳作業は完全監視の中で行わたが、ある日ネットに作品の冒頭10ページが流出してしまう。アングストロームの元に、24時間以内に500万ユーロを払わなければ次の100ページも公開するという脅迫メールが届くのだが…。
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(レビュー) 世界的ベストセラーの翻訳を巡って繰り広げられる衝撃のミステリー。
ユニークな設定から始まる冒頭に興奮させられた。個性的な9人の翻訳者が豪邸の地下に集められ、厳しい監視の元、いっせいに翻訳作業を始める。ところが、ある日突然作品の冒頭がネットに流出してしまう。一体誰が、何の目的で作品を流出させたのか?その犯人探しが前半部のメインとなる。
自分は犯人が誰なのか何となく予想がついてしまったのだが、ただ後半から明らかにされる事件の背後関係については予想外の”からくり”が用意されており、最後まで面白く観ることが出来た。
ベストセラー誕生の影に壮大な復讐劇あり。そこを痛快に締めくくりながら上手くエンタメとして昇華していたと思う。
文学を金儲けの道具としか思わない企業家が痛烈なしっぺ返しを食らうというのも、観ていて気持ちが良かった。アングストロームの言いなりになっていた女性秘書の反抗は一つの見物で、胸がすくとはこういうことを言うのだろう。
但し、観ている最中幾つか腑に落ちない点があり、それらがクリアされていれば今作は更に完成度が増しただろうと惜しまれる。
例えば、9人の翻訳家が選定された経緯が劇中ではまったく描かれていない。ここはこのミステリを紐解く根本を成す部分なので明確にしてほしかった。
また、後半の電車のシーンは大変スリリングで面白く観れるのだが、リアルに考えるとさすがに無理があるように思った。
9人の翻訳者の中で一人だけ不幸な結末を迎えるが、これもドラマを勧善懲悪へ持って行こうという安易な作劇に思えてならないかった。そのせいで作品の後味が少し悪くなってしまった印象が残る。
監督、共同脚本は
「タイピスト!」(2012仏)のレジス・ロワンサル。「タイピスト!」はウェルメイドに作られたサクセス・ストーリーだったが、今回は少し捻ったミステリーということで、作家としての幅の広さを見せた感じがする。次回作はロマン・デュリスとヴィルジニー・エフィラ共演の家族ドラマのようである。日本の公開は今のところ未定。