「マウス・オブ・マッドネス」(1994米)
ジャンルホラー・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 保険調査員のトレントは、失踪したベストセラー・ホラー作家サター・ケインの行方を追う仕事を請け負う。その頃、巷ではサター・ケインの小説を読んだ人々が暴動を起こす事件が多発していた。その原因を探るために、トレントは彼の小説を読むのだが、次第に幻覚を見るようになり…。
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(レビュー) ベストセラー作家の行方を追う保険調査員の恐怖をシュールなテイストで描いたホラー作品。
現実と幻覚が混沌としていく技巧的な演出が冴えわたり、中々の快作となっている。
例えば、トレントがサター・ケインの小説から得た手がかりを掴んで”存在しない町”を探し求めるシーン。真夜中に自転車に乗った白髪の老婆に遭遇するのだが、日常の中の非日常という不条理さも相まって何とも不気味だった。
あるいは、斧を持った男がカフェで打ち合わせをしているトレントに襲い掛かるシーンも、中々のインパクトである。
ホテルのフロントに飾られた絵がいつの間にか変化しているのも、恐怖を盛り上げるという意味では技アリな演出である。
後半にかけて畳みかけるように恐怖がトレントに襲い掛かってきて。もはや出口の見えない悪夢の迷宮に迷い込んだような感覚になっていく。このあたりの盛り上げ方も良く出来ていると思った。
監督はジョン・カーペンター。言わずと知れたホラー映画界のマエストロであり、その手腕は本作でも十二分に発揮されている。
物語は精神病院に収監されたトレントの回想形式で進行する。この構成も上手いやり方だと思った。というのも、トレントの話の真偽が不確定という所を含め大変ミステリアスに観れるからである。その回答は終盤に提示されることになるが、これも意外な所に結実し面白く受け止めらることができた。
すべてはサター・ケインの掌の上だったということなのか。あるいは、トレントの狂った頭が創り出した幻影だったのか。謎が謎を呼ぶエンディングが余韻を残す。
尚、終盤にかけてラヴクラフトのクトゥルフ神話の影響が見られるが、これは明らかにオマージュだろう。分かる人にだけ分かってくれればいいという作りになっており、自分は思わずニヤリとしてしまった。
キャストではトレントを演じたサム・ニールの好演が光っていた。前半はやり手の保険調査員として顔、後半から恐怖に翻弄されながら徐々に狂気に飲み込まれていく様を堅実に演じて見せている。