「ウェイティング・バーバリアンズ 帝国の黄昏」(2019伊米)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 砂漠の辺境にある小さな町。そこは帝国の支配下にあり、心優しい民政官の下で人々は平穏に暮らしていた。ある日、そこにジョル大佐が赴任してくる。彼は砂漠の蛮族が攻めてくるという噂を信じ込み、何も知らない人々を次々と投獄・拷問していくのだが…。
ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) ノーベル賞受賞作家J・M・クッツェーの小説「夷狄を待ちながら」(未読)の映画化。原作者自らが脚色を手がけ、
「彷徨える河」(2015コロンビアベネズエラアルゼンチン)のシーロ・ゲーラ監督がメガホンをとった作品である。
19世紀の帝国主義時代を舞台にした物語と思われるが、具体的な町の名前や組織名は記されず、ある種架空の物語という捉え方ができよう。敢えてそうした情報を伏せたことで、物語の普遍性を狙ったような節もある。
いずれにせよ、ゲーラ監督の前作「彷徨える河」同様、寓話的な世界観が構築されていて、独特の雰囲気が味わえた。
テーマも「先住民」対「入植民」、「自然」対「文明」という前作からの継承が感じられる。
今作は何と言っても、広大な砂漠を捉えた映像美が素晴らしい。撮影監督は
「愛を読むひと」(2008米独)や
「ミッション」(1986英)で知られるクリス・メンゲス。もはや数々の作品でその名手ぶりを発揮している大ベテランだが、今回もその手腕は見事に作品に重厚な品格を与えている。
ゲーラ監督の演出も、浮遊感を漂わせたロングテイクを多用しながら、白人たちに蹂躙される先住民の悲劇をシリアスに捉えている。本来であればバイオレンスシーンをダイレクトに描くことでドラマチックにしたいところだろうが、敢えてそこを封印し、身体中に刻まれた傷跡だけで蛮行の数々を提示して見せている。このあたりは公開時のレーティングを意識してのことなのか、それともゲーラ監督の作家としての品性なのか分からないが、大変スマートな演出と言える。
ただ、ドラマ自体は存外シンプルで、ゲーラ監督のミニマルな演出スタイルのせいもあろう。少し退屈してしまった。キーパーソンとして、ジョル大佐の拷問にあった女性が登場して民政官との間にかすかな情愛が育まれていくが、これもそれほど大きくクローズアップされるわけではない。
キャスト陣では、主人公の民政官役をマーク・ライランス、ジョル大佐役をジョニー・デップが演じている。他にロバート・パティンソンも出演し、顔触れだけ見ればハリウッド大作のようでもある。「彷徨える河」で注目されたゲーラ監督にとっての初めての英語作品ということで、期待値の高さがうかがえる。
中でも、マーク・ライランスの熱演は見事であった。また、ジョニー・デップは憎々しい悪役を冷徹に演じており、こういう役は大変珍しい気がした。