「恐怖のセンセイ」(2019米)
ジャンルサスペンス・ジャンルコメディ
(あらすじ) 小心者のケイシーは、ある夜強盗に襲われ負傷してしまう。職場から治療のための休暇を与えられた彼は、同じような目にまた遭うのではないかという不安におびえる日々を送った。そして、ひょんなことから空手道場の入門を決心するのだが、そこには生徒たちから厚い信頼を受けているセンセイがいて…。
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(レビュー) どこか怪しい空手の先生に気に入られた青年が、やがてとんでもない事態に巻き込まれてしまうブラックコメディ。
気の弱いケイシーが徐々に暴力に支配されていく様にクスリとさせられるが、同時に何とも言えない不気味さも覚えた。言ってしまえばケイシーはセンセイに導かれながら
「ファイト・クラブ」(1999米)のような悪夢に引きづり込まれてしまうのだが、こちらは割とコメディライクな所があり屈託なく観れるところが違う。
実際、映画前半はオフビート色の強いコメディトーンで、ケイシーの健気な奮闘が微笑ましく描かれている。自分も観ていて何だか応援してしまいたくなった。
ところが、後半から徐々にブラックなトーンに傾倒していく。センセイの道場は昼の部と夜の部があって、ケイシーは夜の部に転入するのだが、そこでは昼よりもハードなトレーニングをしていて、時には重傷者まで出る。ケイシーはそこで徐々に内なる凶暴性を露わにしていくのだが…と完全に「ファイト・クラブ」のような展開になっていくのだ。
更に、クライマックスにかけて、ほとんどサイコ・サスペンスのような様相を呈し、最後まで先の読めない展開で面白く観れた。
何と言っても本作の面白さを支えているのはセンセイのキャラクターだろう。一見すると誠実で人望の厚い指導者に見えるが、裏では生徒たちを危険な思想で染め上げている。道場の中には女性の生徒もいて後半のキーパーソンになっていくのだが、彼女に対する性的差別も酷いもので、完全なるマチズモの権化である。センセイのエキセントリックな”本性”が徐々に露わになっていくことで、物語は終盤にかけてスリリングに盛り上げられている。
ただ、オチに関してはやや安易さを覚えてしまった。歯切れの良さは感じるものの、後半のシリアス方面への舵取りを考えれば、全てを描かず想像させるくらいのオチでも良かったのではないだろうか。
監督、脚本は初見の監督だが、緩急をつけた演出でユニークな題材を見事にエンタテインメントに昇華していると思った。特に、時折見せるブラックなトーンに魅了された。
キャストでは、ケイシーを演じたジェシー・アイゼンバーグがハマリ役だった。