「ドッグマン」(2018伊仏)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) マルチェロは妻子と別れて静かな海辺の町で犬のトリミングサロンを営んでいた。時々娘と面会できることが彼にとっての唯一の楽しみだった。そんなある日、地元の厄介者シモーネに目を付けられ、彼の悪事を手伝わされることになる。二人はやがて取り返しのつかない事件を起こしてしまい…。
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(レビュー) 粗暴なチンピラに付きまとわれた小心者の男が辿る悲惨な運命を冷徹な眼差しで描いたクライム・ドラマ。
マルチェロは人の良い平凡な男である。犬が大好きで、別れた娘との関係も良好。そんな彼が、シモーネというヤンキーに絡まれて、一緒に行動を共にするうちに重大な犯罪に巻き込まれてしまう。
普通に考えればシモーネとの関係をさっさと断ち切ればいいと思うのだが、元来臆病なマルチェロにはそれが出来ない。嫌と断ることが出来ず、どんどん関係を深めていってしまうのだ。その結果、後戻りできないところまで自分を追い込んで行ってしまう。
もし自分がマルチェロの立場だったら、どうだろう?と考えてしまった。果たしてシモーネの誘いを断れただろうか…と。
監督、脚本は
「ゴモラ」(2008伊)のマッテオ・ガローネ。「ゴモラ」は現代マフィアにまつわる群像劇だったが、今回もそれに近い犯罪と暴力の世界を描いている。ただ、「ゴモラ」ほど複雑な物語ではないので、取っつきやすい印象を持った。
ガローネ監督の演出は非常に淡々としているが決してそれが退屈するということはなく、マルチェロとシモーネの関係、マルチェロと町の人々の微妙な距離感を非常にスリリングに捉えていると思った。
唯一、微笑ましく観れるのがマルチェロと娘の交流で、ドライな作風が貫かれる中、ホッと一息付けるシーンとなっている。
ラストは、はっきりと明示されないまま観客の想像に託すような終わり方になっている。
ネタバレになるので詳しくは書かないが、まるでこの世から取り残されたかのような虚無感に憎しみあうことの滑稽さ、醜悪さが感じられた。マルチェロの顛末を”世界”が嘲笑っているかのようでもある。
「ドッグマン」というタイトルの意味も観終わった後に色々と想像できた。犬は人間に従順に使えるペットにもなるし、牙をむき出しにして襲い掛かる獣にもなる。シモーネにとってのマルチェロとは、つまるところそういう存在だったのかもしれない。
尚、劇中でワンシーンだけ小さなチワワがひどい目に合うので、愛犬家の人は注意されたし。このチワワは今作でカンヌ国際映画祭のパルム・ドッグ賞を受賞している。