「ノー・エスケープ 自由への国境」(2015メキシコ仏)
ジャンルサスペンス・ジャンル社会派・ジャンルアクション
(あらすじ) 荒涼とした砂漠地帯の国境を越えようとするメキシコ人グループがいた。車が故障してしまい、全員徒歩で砂漠を超えることを余儀なくされる。そこに謎の銃弾が襲い掛かる。アメリカに残してきた息子との再会を誓うモイセスは必死の逃走を図るのだが…。
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(レビュー) いわゆるマンハント物だが、製作された時期を考えると、明らかに反トランプ主義的思想が読み解ける作品である。移民を実力行使で排除することの恐ろしさを暗喩したドラマとなっている。
物語が一本調子で人物造形に甘さも覚えるが、広大な砂漠の追跡戦を緊張感みなぎるタッチで描き切ったところは見事である。その迫力に終始、目が離せなかった。
また、狙撃者の異常なまでの排他的思想が、当時のトランプとダブるあたりも風刺として上手く効いている。
監督、共同脚本はアルフォンソ・キュアロンの息子ホナス・キュアロン。父が監督したSF映画
「ゼロ・グラビティ」(2013米)で父と共に脚本を務めた若き才人である。更に、それを元にした短編スピンオフ作品を撮っている。
本作はサスペンスとアクションを基調とした作りで、演出自体は非常にオーソドックスながら、緩急の付け方が非常に上手く、最後まで飽きなく観ることが出来た。父親譲りの感性だろうか、キャリアが浅いわりに手練れている。
丸腰の不法移民が成すすべなく銃撃者に追い詰められていく様子を極めてドライに写すことで、銃撃者の憎々しさ、狂気を炙り出していく演出も容赦がない。それがあるからクライマックスのモイセスの逆襲にも自ずと感情移入もできる。
欲を言えば、そのクライマックスが割とアッサリトしすぎているので、もうワン・アイディア欲しかったか…。
とはいえ、90分弱というコンパクトさ、おそらく低予算であることなどを併せ考えれば、全体的にはそつなく作られた良作だと思う。
モイセスを演じるのは、父の作品「天国の口、終わりの楽園」(2001メキシコ)にも出演していたメキシコを代表する俳優ガエル・ガルシア・ベルナル。父アルフォンソと共に製作に名を連ね、若き俊英をバックからも盛り立てている。