「地獄の謝肉祭」(1980伊)
ジャンルホラー
(あらすじ) ベトナム戦争に従軍していたノーマンは、飢えのために人肉をむさぼり喰っていた部下のチャーリーとトミーを救出した際に腕を噛まれる。それ以来、生肉を見ると異常に興奮するようになってしまった。帰国後、戦争後遺症で入院していたチャーリーが突然人々を襲い始めたという知らせを聞いて、ノーマンは駆けつけるのだが…。
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(レビュー) 戦時下における食人行為は
「野火」(1959日)やそのリメイク作
「野火」(2014日)、更にはドキュメンタリー映画
「ゆきゆきて、神軍」(1987日)などで描かれていたので、実際に行われていたのだろうと思う。どこまで真実に沿った作りかという点では色々な意見はあろうが、少なくともこれらの作品は事実を元にしたシリアスな映画なので、観る方としてもある程度の覚悟をして臨まねばらない。
一方で、こちらは完全に見世物的なエンタテインメント作品で、カニバリズムは怖さ、サスペンスを盛り上げるための道具でしかない。したがって、個人的には全然恐ろしさを感じなかった。エンタメとして割り切って観ればそれなりに楽しめるが、実際に恐ろしいのは「野火」や「ゆきゆきて、神軍」の方である。
本作は随所にジョージ・A・ロメロ監督の「ゾンビ」(1978米伊)の影響が見て取れる。
主に前半にそれが伺えるが、例えば蚤の市を舞台にしたチャーリーと暴走族の銃撃戦などは完全に「ゾンビ」におけるヘルスエンジェルスとの攻防を彷彿とさせる。あるいは、女性の首筋の肉を貪るカットも「ゾンビ」で見たカットとまったく一緒で苦笑してしまった。
「ゾンビ」は世界的にヒットし、雨後の筍のごとく亜流作が作られたが、いくら設定や物語を変えても、やはりオリジナルが持つ強度には到底叶わず、大体がその場限りで消費されて忘れ去られて行ってしまった。本作もその一つと言っていいかもしれない。
正直、ゴア描写のぬるさや、突っ込み所満載な穴だらけのシナリオは、お世辞にも上手く出来ているとは言い難い。演出や編集の酷さも枚挙にいとまがないほどで、そういう意味ではよくあるB級見世物映画なのかもしれない。
ただ、幾つか見るべき点もあって、そこが今作を埋もれたままの作品にしていないように思う。
一つは、ノーマンを演じたジョン・サクソンの好演である。彼は「燃えよドラゴン」(1973米英)でのブルース・リーとの共演が最も有名だが、正統派な二枚目で悪役、ヒーロー問わず多数の作品に出演した俳優である。今回は退役軍人の苦悩を渋く体現しており、中々奮闘している。
終盤は地下水道を舞台にした追跡劇になるのだが、これもシチュエーションのアイディアが上手く効いていて、逃げ場を失った帰還兵の悲劇を堅実に表現していた。
もう一つは、ノーマンの帰還兵という設定である。この頃は「ディア・ハンター」(1978米)等、ベトナム帰還兵の作品が続々と公開されていた時期でタイムリーなネタだったと言える。それを「ゾンビ」的テイストを持ったホラー作品と掛け合わせたところが一つの持ち味になっている。悲哀に満ちたノーマンの顛末がインパクトを残し、他の亜流作とは一線を画した作品になっている。
尚、個人的に最も印象に残ったのは、ネズミを火炎放射器で焼き殺すシーンだった。今では絶対に出来ない表現だと思う。