「ある人質 生還までの398日」(2019デンマークスウェーデンノルウェー)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルサスペンス・ジャンル社会派
(あらすじ) 怪我で体操選手の道を諦めたダニエルは、ずっと夢だった写真家になることを決意し、やがて戦時下の日常を世界に伝えたいと内戦中のシリアへと渡る。ところが、非戦闘地域にも関わらず、突然現れた男たちに拘束された彼は監禁されてしまう。家族は人質救出の専門家アートゥアを通じてダニエルの解放を求めるのだが…。
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(レビュー) 実際にシリアで拘束されたカメラマン、ダニエル・リューの実体験を元にした実録サスペンス作品。
過去に日本人ジャーナリストも同じように拉致監禁されたことがあるので、決して異国の地で起きたドラマというふうには観れない。
ダニエルは家族の必死の金策によってどうにか解放されたが、これは運が良かった方だろう。イスラム国の人質になったジャーナリストはそのまま殺害されてしまったか行方不明になった人が大多数であり、それは本作のエンドクレジットで示唆されている。その数字を知ると愕然としてしまう。
ダニエルの祖国デンマークは、国としてテロリストに屈しない姿勢を貫き、政府が身代金を用意することはしなかった。これはアメリカや日本を含め、多くの国が採っている共通姿勢である。かつて「自己責任」という言葉をよく耳にしたが、結局捕まった人を助けるのは、人質の家族しかないのである。それが現実なのである。
ダニエルの家族は、ネットを使って募金活動を開始するが、それだけでは到底要求額を賄えず、企業や銀行などの融資を頼ることになる。しかし、ある程度裕福な家庭なら融資も受けられるだろうが、普通の一般家庭ではそれすらも断られてしまう。ダニエルの家庭も決して裕福と言うわけではなく、資金繰りに難儀する。
本作の見所は、何と言っても人質として捕らわれたダニエルが体験する凄惨な監禁、拷問シーンの迫力と生々しさであるが、もう一つ。身代金をかき集める家族の懸命の努力も見所である。
監督は
「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」(2009スウェーデンデンマーク独)のニールス・アルデン・オプレヴ。スピーディーでリアルな演出は本作でも健在で、特にダニエルが人質になって以降の緊迫したトーンの持続には目を見張るものがあった。
また、IS側と交渉するエージェントの活躍や、ダニエルと一緒に人質になったアメリカ人ジャーナリスト、ジェームズのユーモラスな造形など、サブキャラの魅力も印象に残る。
尚、このジェームズも実在の人物をモデルにしているということだ。時に仲間を励まし、鼓舞し、苦しい監禁生活のリーダー的存在になっていく。ダニエルも彼の存在にはかなり救われている様子だった。
脚本はアナス・トマス・イェセン。彼はスザンネ・ビア監督とよくコンビを組んでおり、これまで「ある愛の風景」(2004デンマーク)、
「未来を生きる君たちへ」(2010デンマークスウェーデン)、
「真夜中のゆりかご」(2014デンマーク)といった作品で仕事をしている。シリアスな問題作をスリリングに筆致する手腕は、毎回見事で、本作でもそのあたりの持ち味が十分に発揮されているように思った。
キャストでは、何と言ってもダニエルを演じたエスベン・スメドの熱演に尽きると思う。今回初見の俳優だったが、体重を増減させながら今回の難役に体当たりで挑んでいる。中々の本格派である。