「HUNGER/ハンガー」(2008英アイルランド)
ジャンル人間ドラマ・ジャンル社会派
(あらすじ) 1981年、北アイルランドのメイズ刑務所Hブロックには、サッチャー首相により政治犯の権利を剥奪されたIRAの囚人たちが収容されていた。彼らは自らの人権を求めて様々な抵抗を試みたが、看守たちにより制圧されていた。そんな中、IRAメンバーのボビー・サンズはハンガー・ストライキの決行を決意する。
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(レビュー) IRAの囚人たちの決死の抵抗を重厚なタッチで描いた実話の映画化。
まず、物語の背景として、当時の北アイルランドの社会状況を、ある程度把握してから観た方が良いと思う。ボビーたちが住んでいる地域は、カトリックとプロテスタントが複雑に入り組んだ場所で、IRAはカトリック系でアイルランド統合を目指して活動した武装組織である。そのあたりのことは
「ベルファスト」(2021英)や
「ベルファスト71」(2014英)を観るとよく分かる。こうした前知識がないと、どうしてボビーたちが囚人として捕まっているのか、何のために戦っているのかということが良く分からないだろう。
映画は複数の視点で描かれる。囚人たちを束ねてストライキを決行する主人公ボビー・サンズの視点を中心に、看守に暴行される他の囚人。自分たちの糞尿を壁に塗りたくる囚人。彼らを暴行する看守長。凄惨な光景に怯える若い機動隊員等。どこまでも客観性に拠った視点が、この映画をドキュメンタリーのように見せている。
監督、共同脚本は
「それでも夜は明ける」(2013米)のスティーブ・マックィーン。本作は彼の長編監督デビュー作である。
「それでも夜は明ける」も奴隷制度に毅然と立ち向かった男の物語だったが、本作もそれに負けず劣らず熱度の高い”反抗”のドラマになっている。
ボビーたちは囚人服の着用を拒否し、房内にシャワーの設置を要求する。また、囚人同士の会話を認めるよう抗議していく。そんな彼らを、看守たちは暴力によって押さえつけていく。
一連の暴行シーンは筆舌に尽くしがたいほど酷いもので、囚人たちは無造作に髪を切られ、警棒で叩かれ、水風呂に沈められ、ホースからの水で体を洗い流される。一応面会は許されているが、刑務所外のIRAメンバーと情報交換を怪しまれればたちまち体中の穴という穴を隅々まで検査される。
こうした目を覆いたくなるような非人道的なシーンの数々を、マックィーン監督は冷徹なタッチで描いている。
また、「それでも夜は明ける」でも印象的に使われていた長回しが、すでにこのデビュー作でも効果的に用いられている。それは後半のボビーと神父の面会シーンだ。本作は基本的にセリフを排した作りになっているが、唯一このシーンだけは長い会話劇になっている。ボビーは神父の引き留めを聞かず、神に対する不審とハンストの決行を決意するに至る。実に緊迫感が持続する会話劇となっていて見応えを感じた。
キャストでは、ボビーを演じたマイケル・ファスベンダーの体を張った熱演に圧倒された。骨と皮だけの身体になるまでの危険な減量を敢行し、その鬼気迫る形相には俳優としての意地が感じられた。