「サイの季節」(2012イラントルコ)
ジャンルロマンス・ジャンル社会派
(あらすじ) イランの詩人サヘルは愛する妻ミナと幸せな日々を送っていた。運転手のアクバルは密かにミナに想いを寄せていた。やがてイラン革命が起き、アクバルは新政府の実力者となる。彼はサヘルを投獄しミナを力づくで我が物にするのだが…。
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(レビュー) 動乱に翻弄された夫婦と運転手の愛憎を幻想的な映像を交えて綴ったドラマ。
実在するクルド系イラン人の詩人サデッグ・キャマンガールの体験にもとづいて描かれた物語ということである。自分はこの詩人のことを全く知らなかったのだが、ネットでは中々情報が見つからず、どこまで著名な詩人なのか分からなかった。もしかしたらイランではかなり有名な人物なのかもしれない。
物語は1979年に起こったイラン革命を舞台に展開される。この革命はホメイニーを指導者とするイスラム教勢力が、当時の親欧米専制から政権を奪取した動乱である。これによって当時の社会状況は大きく変わり、中には本作のサヘルのように逮捕拘留者が続出したそうである。そんな歴史的背景を知っていると、本作はより深く理解できると思う。
監督、脚本は「酔っぱらった馬の時間」(2000イラン仏)、
「亀も空を飛ぶ」(2004イラク)のバフマン・ゴバディ。彼自身イランから亡命しながら映像製作をしている作家であり、本作のサヘルに自身を投影しているのかもしれない。
ごくありふれた三角関係を描いたメロドラマは、それ自体、取り立てて新味はないが、現代と過去を交錯させた構成が、ある種の不思議な浮遊感をもたらし味わい深くしている。いかにもゴバディ監督らしい幻想タッチと映像美も、作品に独特の魅力を寄与している。
例えば、中盤で亀が空から降って来るシーンがあるが、これなどはシュールでインパクトがあった。あるいは、サイが突如として現れたり、水中のラブシーン等、非日常的な光景が、通俗的な物語に良い意味でアクセントをつけている。
また、過去編は銀残しのような渋いトーンで撮られており、これも時代の差異を明確化するという点においては上手いやり方だと思った。
キャスト陣では、ミナを演じたモニカ・ベルッチが年を重ねて尚、変わらぬ美貌で画面に圧倒的存在を見せつけている。今回は権力によって理不尽な目に合わされる悲劇のヒロインということで、終始悲哀を滲ませた演技を貫き通しており、芯の強い女性像を熱演している。特に、黒い布袋を被らされてアクバルに犯されるシーンは、体を張った熱演で見応えを感じた。