「戦場のおくりびと」(2017米)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) マイケル中佐は現場から退き今はデスクワークに勤務していた。ある日、イラク戦争の戦死者リストの中に同郷の見ず知らずの兵士チャンス上等兵の名前を見つける。運命的な物を感じた彼は、遺体をワイオミングの家族の元に送り届ける任務に志願するのだが…。
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(レビュー) 戦死者の棺を故郷へ送り届ける海軍兵士の旅をペーソスを交えて描いたロードムービー。実話の映画化ということである。
アメリカ映画の中で戦死者を弔うシーンは何度も観てきたが、こうした切り口で描いた作品は中々なかったように思う。戦場を描かずして戦争を描くというやり方にこういう方法もあったのか…という新鮮味が感じられた。
また、淡々とした作風が貫かれており、声高らかにメッセージを訴えていないところにも好感が持てた。
さて、アメリカ人の戦死者に対する敬意が相当強いということは知っていたつもりだが、本作を観るとそれが具体的に分かる。
例えば、棺を乗せた車とすれ違う対向車は皆ヘッドライトを付けて哀悼の意を捧げていた。また、棺を乗せた旅客機の機長は、乗客より先に棺を下ろすことで戦死者に対する敬意を表していた。日常の暮らしの中で、ここまで戦争という物が身近に感じられる瞬間は、おそらく日本では中々無いことだろう。いかにもアメリカらしい光景という感じがした。
ただ、犠牲となるのは何もアメリカの兵士ばかりではない。当然、敵国の兵士も同じように戦場で命を落としているわけで、そのことは決して忘れてはならない事のように思う。
したがって、誠意をもって製作された作品であることは間違いないと思うが、一方的に自国の賛辞のみに終始したこの作りにはどこか居心地の悪さも覚えた。
また、本作はHBOで製作されたテレビムービーで、80分弱という小品である。コンパクトな作品故に、ドラマは随分とアッサリとしたものである。
例えば、マイケルが棺を運びながら様々な人と出会うというプロットは、それ自体悪くはないのだが、一つ一つのエピソードが散文的で、何となくあらすじを見せられているような感じで食い足りない。棺を空港まで運ぶドライバー、飛行機で席が隣になる今時の女子、棺の中の兵士の兄弟といったサブキャラは、夫々にじっくりと描けば見応えのあるものとなっただろうが、アッサリとしか描かれていない。
マイケルを演じたケビン・ベーコンの抑制を利かせた演技が渋くて良かっただけに、もう少しじっくりと腰を据えて描けば更に感動的な作品になっただろうと惜しまれる。