「マン・オン・ワイヤー」(2008英)
ジャンルドキュメンタリー
(あらすじ) 1974年、ニューヨークのワールド・トレード・センターのツインタワーの間を綱渡りした大道芸人フィリップ・プティに迫ったドキュメンタリー。
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(レビュー) 本作を元にした劇映画「ザ・ウォーク」(2015米)を先に観ていたこともあり、興味深く観れた。
とはいえ、劇映画の場合は、ある程度脚色が入っているだろうというバイアスを通して観れるのだが、ドキュメンタリーとなるとそうはいかない。これはどこまで事実に即しているのか?という疑問を常に抱いてしまうからだ。本作でも幾つかそう思ってしまうようなシーンがあった。
例えば、途中で入る再現ドラマは、割とユーモアに満ちた作りになっていて、そこは少し疑いの目で見てしまいたくなった。もちろん映画=エンタテインメントという考え方は分かるのだが、一方でドキュメンタリーというジャンルにおいて、そのための作為がどこまで許容されるのか?という問題は無視できないところである。
また、フィリップと仲間たちが計画を練り上げていく過程は、さながらケイパー物の劇映画を観ているかのようでワクワクさせられる。ワイヤーを隣のビルに飛ばす方法で意見を対立させたり、実際に現場に潜り込んで下見をしたり等々。確かに面白おかしく観れるのだが、その一方でシリアスな側面は映像からは余り見えてこない。
あるいは、フィリップと元恋人の関係が描かれているが、少し甘ったるくも感じられ、果たしてカメラはどこまで二人の本音に迫れているのか?という物足りなさも覚えた。
全体的に楽観的なテイストが貫かれ、そこは大変面白く観れるのだが、実際にはフィリップと周囲の人々の中にはかなりの苦悩とプレッシャーがあっただろうと想像される。そのあたりをマイルドにしてしまった功罪はあるように思う。
それにしても、大道芸人という職業柄か、常にユーモアを忘れないフィリップのあっけらかんとした性格はどこから来るものなのか。地上411mの上空を綱渡りしたという事実もさることながら、恐怖を克服した強靭な精神、もっと言えば”狂気”が気になって仕方がなかった。できれば、その”狂気”にも迫って欲しかったような気がする。