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「A」

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「「A」」(1998日)star4.gif
ジャンルドキュメンタリー・ジャンル社会派
(あらすじ)
 オウム真理教の荒木浩広報副部長を中心に信者達に密着取材したドキュメンタリー。

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(レビュー)
 オウム真理教が犯した犯罪については断罪して然るべきである。しかし、当たり前のことであるが、どんな組織でも、その中には一人一人の「個」がいるわけで、麻原彰晃に師事し教団の教えを守った信者でも、一皮むけばやはり一人の人間なのである。そんなことを改めて教えてくれるという意味で、本作は非常に興味深く観れる作品だった。

 監督はドキュメンタリー作家としてのみならず様々なメディアで活動している森達也。以前観た「FAKE」(2016日)もそうだったが、彼は被写体の深部に客観的に迫りながら、どこか冷めた眼差しで見つめているようなところがある。また、観客に回答を委ねる姿勢は、”観察映画”を自認する相田和弘と通じるような所があると思った。

 中心となるのはオウム真理教の広報副部長・荒木浩に対する取材である。信者としてマスコミの対応に追われる荒木氏。両親の反対を押し切って出家した一人の若者としての荒木氏。公私にわたる両方の顔を捉えながら、マスコミ、公権力、教団を非難する一般市民との対峙に明け暮れる日々をカメラは淡々と記録している。そこから見えてくるのは、強引なマスコミの取材態勢や、公安の行き過ぎた捜査などだ。森監督はそこに問題を提起している。

 注目したいのは、中盤で登場する公安による不当逮捕のシーンである。歩道で信者が刑事と押し問答になり、刑事を押し倒したとして公務執行妨害で逮捕されてしまう。しかし、押し倒したのはむしろ刑事の方だったということは、カメラに記録された映像を観れば一目瞭然である。ご丁寧に刑事は足を引きずる”作り演技”までしており、カメラはそれもしっかりとフィルムに収めている。
 いわゆる”転び公妨”と呼ばれるものであるが、自分は映画やドラマといったフィクションの中ではよく目にしていたが、実際にそれが行われた映像は初めて見た。日常的にこんなことが行われていること自体、異常なことであるし、普通に考えて恐ろしいことである。
 結局、森監督とプロデューサーは、そのビデオテープを弁護士に供託することにして信者は無事に釈放されたそうである。しかし、もしこの証拠がなかったらと思うとゾッとする。

 映画は、荒木浩以外にも複数の信者について取材をしている。いずれも逮捕された麻原彰晃を未だに信奉しつつも、事件についての感想を聞かれると口ごもり気まずそうな表情になるのが印象的だった。そこから夫々の葛藤のようなものが透けて見えてくる。きっと内心では後ろめたい気持ちもあるのだろう。

 そして、荒木氏本人も見るからにファニーフェイスで宗教に染まっていなければいたって普通の青年に見える。彼は頭が切れるので、他の信者のように悩める心情を決して表に出したりはしない。だからこそ、広報副部長としてスポークスマン的な役割を担わされているのだが、しかし冷静に考えてみれば、これは恐ろしいことじゃないかと思う。人当たりが良くどこか頼りなさげなこの青年に、うっかり同情してしまいそうになるからだ。実際には彼も麻原彰晃の教えにドップリと浸かった信者である。その事実を見落としそうになってしまう。

 これは宗教の勧誘にも言えることだと思う。人当たりの良い面を見せて警戒心を解いて付け込むというのは、この手の勧誘の常套手段だ。ここに出てくる信者たちも、きっとそこに引っかかってしまったのだろう。

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