「血は渇いてる」(1960日)
ジャンルコメディ・ジャンル社会派
(あらすじ) 中小企業勤務の平凡な会社員木口は、会社側の大量解雇決定に異議を申し立てるべく拳銃自殺を図った。一命をとりとめた彼は、マスコミから注目を浴び一躍時の人となる。生命保険会社の広報課で働く野中ユキは、そんな彼を宣伝に利用しようとコンタクトを図るのだが…。
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(レビュー) マスコミに祭り上げられていく平凡な男の数奇な運命を風刺を交えて描いた社会派ドラマ。
労働争議が盛んにおこなわれていた当時の時代を見事に浮き彫りにした作品なので、今観ると古臭く感じられるかもしれない。しかし、一方でマスコミによって人生を狂わされていく悲劇の男・木口の運命には、現代の”魔女狩り”に似たアイロニーが感じられ、ほろ苦い鑑賞感を含め強い普遍性を持った作品になっている。
監督、脚本は松竹ヌーヴェルバーグの旗手・吉田喜重。本作は
「ろくでなし」(1060日)に続く長編2作目である。後のアーティスティックな感性はまだ開眼しておらず、ストーリーも明快で取っ付きやすいので誰が観ても楽しめる作品のように思う。
ただ、冒頭の自殺未遂にいたる木口の葛藤を描写したトイレのシーンにおける水滴の演出。クラブ歌手が”血を吐け、唾を吐け~”と歌う切れ味鋭いカッティング演出、こめかみに銃を突きつけた木口の巨大なポスターが生命保険会社のビルに掲示されるというシュールな絵面等、喜重らしいアートな感性はそこかしこに垣間見れる。
尚、撮影は前作に続き成島東一郎が担当している。数々の傑作でその手腕を発揮するが、その萌芽が本作中にすでに見て取れる。
ラストのオチは痛烈で、喜重の表現者としての”意地”が感じられた。妥協しないその姿勢は、新人監督らしからぬ不敵さで、氏の持ち前のプライドの表れでもあろう。初期時代からそれが確立されていたことに驚かされる。