「ハングマンズ・ノット」(2017日)
ジャンルサスペンス・ジャンルコメディ・ジャンルアクション
(あらすじ) 暴虐の限りを尽くすヤンキー兄弟シノブとアキラは、傷害事件を起こして逮捕される。一方その頃、コミュ障の大学生柴田は、電車で見かけた女性に一目惚れをする。彼女の気持ちなどお構いなしにストーカー行為を増長させていく柴田だったが…。
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(レビュー) 暴力に取りつかれた若者たちの暴走をエネルギッシュな映像と独特のユーモアで活写したバイオレンス映画。
映画のオープニングシーンから驚かされるが、ここからも分かる通り本作は暴力=見世物という思想に徹した作品になっている。画面上で繰り広げられる凄惨な光景の数々は観客の感情を逆なですること必至だが、どこかで”怖いもの見たさ”のような関心が掻き立てられてしまうのも事実である。正にエクスプロイテーション・ムービーを地で行くような作品と言えよう。
監督、脚本は
「スロータージャップ」(2017日)の阪元裕吾。
前作同様、今回も過激な描写とブラックな笑いが横溢する怪作となっている。公開された時期はほとんど同じであるが、演出は暴走一辺倒だった「スロータージャップ」に比べて幾分工夫の跡が見られる。
例えば、日常の中に不意に訪れる暴力の衝撃性はこの監督の一つの持ち味だと思うが、本作では柴田が警察官の拳銃を奪って撃ち殺すシーンにそれが見て取れる。敢えて淡々と、ある意味では軽薄ささえ感じられるこのシーンには奇妙なリアリズムを覚えた。
あるいは、シノブとアキラ達、ヤンキー集団が道端で拉致した少女を監禁レイプするシーンは1シーン1カットで生々しく切り取られており、やはり日常に隣接する暴力の怖さをドライに切り取っている。
逆に、暴力を敢えて見せない省略演出も中々スマートで、例えば柴田にストーキングされる女性の殺害シーンは見事にカットされている。柴田のサイコパス感をより強調するのであればここをダイレクトに見せるという方法もあったと思うが、敢えてそれを見せずに物語を流麗に進めた演出は技アリと言いたくなる。
物語は非常にシンプルである。シノブとアキラの極悪コンビとサイコパス柴田の狂気の日常を交互に見せつつ、クライマックスで彼らの数奇な邂逅を描く…というものだ。物語が意外な方向にスケールアップされていき、ややリアリティを失ってしまうのは残念であるが、そこはそれ。きっと阪元監督の中でも、全て承知の上なのだろう。ゲーム感覚でカジュアルに犯罪を繰り返していく彼らの暴走には、見世物に徹した阪元監督の有り余る熱量みたいなものが感じられた。
また、今作には東日本大震災のボランティアや選挙活動を茶化すようなシーンが出てくる。この辺りには社会の偽善に対する監督なりの痛烈な批評が伺え、中々骨太な一面も見せている。