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愛の小さな歴史

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「愛の小さな歴史」(2014日)星3
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 食品配達の仕事をしている夏希は、幼い頃に父親から虐待を受けたトラウマを抱えながら孤独な日々を送っていた。そこに父の知り合いを名乗る青年がやってきて父の消息を聞かされる。夏希は久しぶりに父と再会するのだが…。一方、借金の取り立てをしている夏生は、たった一人の家族である妹とすれ違いの生活を送っていた。妹の幸せを考えていたが、その思いは届かず…。

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(レビュー)
 疎遠だった父親と再び一緒に暮らすことになった孤独な女性と、妹との仲をやり直そうとするヤクザな兄の葛藤をシリアスに綴った作品。

 説明的なセリフが一切ないため、登場人物たちの心情を汲み取りながら観ていくしかない作品で、人によっては理解に苦しむ、つまらないという意見が出てきそうな作品である。個人的には、そのあたりを探りながら最後まで興味深く観れた。

 どうして夏希は大嫌いだった父親に会いに行くのか?言葉では表されていないので想像するほかないが、おそらく彼女はたった一人の家族である父親にすがるしかなかったのだろう。孤独な彼女にとっての居場所はそこしかなかったのだと思う。それは当然、過去の虐待のトラウマを蘇らせることになるのだが、彼女はそれを乗り越えないと前に進むことが出来ない…と確信しているようにも見えた。

 一方、夏生はヤクザな世界に入ったのをきっかけに、妹を長年放ったらかしにしてきた男である。夏生から見捨てられ、他に頼れる家族もいない妹は、次々とつまらない男に引っ掛かり薬に手を出してしまう。夏生はそんな妹を更生させようとするのだが、全ては後の祭りである。妹はどこまでも堕ちて行ってしまう。こちらは割とセリフでその胸中を明確に口に出してくれるので分かりやすい。

 映画はこの二つの物語を並行しながら描いていく。夫々に接点はないドラマなのだが、ただ夏希にしろ夏生にしろ、血縁という束縛に苦悩する者同士、どこかで運命を共にしている風にも見れる。一度手放してしまった愛を渇望する人間の業とでも言おうか。そこに愚かしさと切なさを感じずにいられない。

 終盤でこの二つのドラマをカットバックで紡ぐ演出が施されているが、ここは中々ドラマチックで見入ってしまった。それまでの淡々とした作風から一転、エモーショナルな盛り上がりを見せ印象に残る。

 監督、脚本はインディペンデントを中心に活動している中川龍太郎。
 プロローグ的な意味合いを持つ序盤のシーンは、キラキラした映像で余り乗れなかったが、それ以外はドキュメンタルで生々しい演出が貫かれており堅実にまとめられていると思った。

 また、物語の構成も凝っていて、夏希と夏生のドラマが最終的にこのプロローグに結実するというあたりもよく考えられていると思った。

 ただ、所々で作為性を匂わす演出はいただけない。
 例えば、クラシック音楽の過剰な使用は逆に陳腐であるし、感傷めいたセリフが所々で興を削いでしまう。また、夏生のキャラクターが硬派なヤクザという割に、時折コミカルになってしまうのもいただけなかった。妹の前で変におどけてみせたり、債務者に対する悔恨のシーンは無い方は良かったように思う。

 キャスト陣は、皆それぞれに熱演していると思った。特に、夏希役の中村映里子と父親役の光石研の演技合戦は大いに見応えを感じた。
[ 2023/04/05 00:36 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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