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ひとよ

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「ひとよ」(2019日)星3
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 タクシー会社を営む稲村家の母・こはるは、3人の子どもたちの幸せのために、家庭内で激しい暴力を繰り返す夫を殺害する。15年後、長男の大樹は地元の電気店の婿養子になり、次男・雄二は東京でうだつの上がらないフリーライターとして働き、長女・園子は美容師の夢を諦め地元の寂れたスナックで働いていた。そんな3人の前に、出所したこはるが突然姿を現わす。

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(レビュー)
 凄惨な過去を引きずる一家の悲喜こもごもを描いた、同名の戯曲(未見)の映画化。監督は「ロストパラダイス・イン・トーキョー」(2010日)「凶悪」(2013日)「孤狼の血」(2018日)「止められるか、俺たちを」(2018日)の白石和彌監督。

 大変シビアな物語だが、3人の子供達が置かれている状況や、彼らのために夫を殺害した母の複雑な心情を考えると、切っても切れない血縁の呪縛、同じ家族の元に生まれた運命の皮肉というものを痛感させられる。

 大樹と園子は、自分たちのために罪を背負った母・こはるに引け目を感じている。しかし、上京した雄二は、自分の人生を狂わせたという思いから母に煮え切らぬ感情を抱いている。そんな彼が”ある目的”を持って帰郷してくることから物語は動き出すのだが、その”目的”というのが本ドラマのミソである。3人の兄弟の対立、愛憎がスリリングに描かれていて面白く観ることが出来た。

 ドラマ自体は大変ヘビーな内容であるが、時折ユーモアを入れてくるあたりが硬軟自在な白石演出という感じがした。
 エロ本の万引きのクダリは本作で最も微笑ましく観れるエピソードで印象に残る。罪は繰り返されるというシニカルなユーモアだが、同時にそこには母子の愛がしみじみと語られ一定の情緒も感じられた。
 タクシー会社社長のキャラクターもユーモラスに造形されており、周囲の神妙な面持ちの中にあって、唯一の明朗さを放っている。

 そして、稲村家が経営するタクシー会社。この舞台設定が絶妙で、要所にエモーショナルな演出を発揮している。
 例えば、大樹と妻が無線を通して口論する場面などは大変ユニークで、今までこういうやり方でタクシー無線を使った演出を自分は見たことがなかった。そういう意味で、新鮮に観れた。
 また、クライマックスにはカーアクションも用意されていて、ドラマを上手く盛り上げていたように思う。

 尚、本作には稲村家以外に、二つの家族のドラマがサブエピソードとして登場してくる。これもメインのドラマに巧みに相関されていたように思う。
 一つは、タクシー会社に勤務する筒井真理子演じる女子事務員のエピソードである。認知症の母を抱えて働く中年女性というキャラクターである。これは、暴力夫に耐えながら子供たちの面倒を見ていた過去のこはるとよく似た境遇にある。二人を並べてみると、色々と興味深く考察できるかもしれない。
 もう一つは、後半から大きくクローズアップされる佐々木蔵之介演じるタクシー運転手のエピソードである。離れて暮らす息子を心配する親心は、これまた、こはるとシンクロする役柄と言えよう。
 こうした多層的な捉え方ができるのが本作の面白い所で、物語の構成自体はよく練られていると思った。

 キャストでは、鈴木亮平が真面目で少し頼りのない長兄・大樹を演じている。これまではどちらかと言うと強直なイメージだったが、今回はそれとかけ離れた役所に挑戦しており新鮮に観れた。また、こはる演じた田中裕子は、もはや貫禄の演技と言って良いだろう。今回も見事な巧演を披露している。

 一方、多少大仰な演技も目に付き、このあたりは邦画の悪い所が出てしまったかな…という印象を持った。特に、全員でハイテンションで喚き散らすクライマックスは、観てて引いてしまった。酒のボトルをガブ飲みして酔っぱらった佐々木蔵之介が、急にシラフに戻ってしまったのにも苦笑するしかなかった。このギャップをどう捉えたらいいのか…。シリアスな場面なので笑うわけにもいかず大変困ってしまった。
 おそらくこうした違和感はちょっとした演出の抑制でかなり解消されるように思うのだが、どうもそのあたりのさじ加減が本作では余り上手くいってないように思った。
[ 2023/06/12 00:41 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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