「トリとロキタ」(2022ベルギー仏)
ジャンルサスペンス・ジャンル社会派
(あらすじ) アフリカ系移民の少女ロキタは、ビザを貰うために審査を繰り返いしていた。その間に故郷に仕送りをしなければならず、彼女は仕方なく危険なドラッグの運び屋をしていた。そんな彼女を手助けしてくれるのが同じ養護施設で暮らす黒人少年トリである。二人は本当の姉弟のように仲が良かったが、あることをきっかけにその関係は引き裂かれてしまう。
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(レビュー) 共にアフリカから移民してきたトリとロキタは同じ養護施設で暮らしながら本当の姉弟のような深い絆で繋がっている。そんな彼女らの”子供らしい”やり取りを見ていると自然と心和むのだが、同時に裏ではドラッグの運び屋をやっており、その事実を知ると何ともやりきれない思いにさせられる。
彼らは親元から離れて、あるいは引き離されて異国の地へ渡ってきたいわゆる社会的孤児である。移民が抱える問題はどこの国でも見られるものだが、様々な制約の中で彼らは理不尽な暮らしを強いられている。いくら真面目に働こうとしてもそれを許さない社会的事情。そのあたりのことが本作のロキタの置かれている状況から伺える。
トリはロキタとはまた違った出自を持っているため、ロキタほどの悲惨さはないものの、今のような暮らしをしていればいずれは裏社会にその身を落としてしまうことになるだろう。
映画を観ながら、彼女たちに誰か救いの手を伸ばせないものか…と思ってしまった。
監督、脚本はベルギーの巨匠ダルデンヌ兄弟。
彼らはよく子供を主人公にした作品を作っている。例えば、「ロゼッタ」(1999ベルギー仏)や
「少年と自転車」(2011ベルギー仏伊)は、いずれも主人公の少年少女が人生の泥沼に陥っていくドラマだった。本作のロキタとトリも然り。周囲の大人たちに、ある種食い物にされながら絶望的な末路を辿っていく。
また、移民問題もダルデンヌ兄弟の過去作には多く登場するテーマである。「イゴールの約束」(1996ベルギー仏ルクセンブルグ)、
「ロルナの祈り」(2008ベルギー仏伊)、
「午後8時の訪問者」(2016ベルギー仏)は、いずれもそのあたりに焦点を当てた作品である。
今回はこうした彼らの作家性がよく表れており、ある意味で集大成的な作品になっているような気がする。
演出は手持ちカメラ主体のドキュメンタリータッチが徹底されており、BGMも一切なし。極限まで削ぎ落された簡潔な語り口が緊張感を上手く醸造している。相変わらず見事な手腕で、デビュー時から一貫したジャーナリスティックな視点も健在で揺らぎがない。
ただ、今回は存外ストレートな作劇になっており、やや物足りないという感想も持った。養護施設を含めた周囲の大人たちとの関わり合いをもっと見てみたかったし、ロキタはともかくトリのバックボーンが薄みでキャラクターとしての魅力が今一つ伝わってこなかったのも残念である。今回はどちらかと言うと犯罪絡みに主点を置いた作りになっており、サスペンスとして観れば確かに面白く観れるのだが、従来のダルデンヌ作品のような深みは余り感じられなかった。
尚、ラストのオチに関しては賛否あるかもしれない。確かにダルデンヌ作品は容易にハッピーエンドを迎えない傾向にあるが、今回はこれまで以上にシビアな結末となっている。それだけダルデンヌ兄弟の社会に対する憤りが強かったということなのかもしれない。