「いとみち」(2021日)
ジャンル青春ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ) 青森県弘前市の高校に通う相馬いとは、民俗学者でシングルファーザーの父と津軽三味線の名手である祖母と3人で暮らしていた。津軽弁がコンプレックスで人付き合いが苦手だった彼女は、ひょんなことからメイドカフェのバイトを始めることになる。
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(レビュー) 同名原作の小説(未読)を
「ウルトラミラクルラブストーリー」(2009日)の横浜聡子が監督、脚本を務めて撮り上げた青春ストーリー。
「ウルトラ~」が極めて風変わりな恋愛ドラマだったのに対し、本作は意外にもウェルメイドな作品である。正直、肩透かしを食らった気分になったが、原作ありきなので、それに準じたのだろう。
物語はストレートな少女の自律のドラマで、大変観やすく作られている。
いとは津軽弁がコンプレックスの内向的な少女である。学校でも友達がおらず、メイドカフェでも上手く立ち回れず失敗ばかりしている。しかし、周囲の温かい人々のおかげで、鬱屈した日々は徐々に潤いを見せていくようになる。
何と言っても、バイト仲間との交遊が微笑ましく観れた。いとと一緒に働くメイドは二人いて、夫々に個性的に色分けされている。一人はカフェの屋台骨を支える一児のシングルマザー。もう一人は東京に出て漫画家になる夢を抱く同年代の少女である。少し癖を持った造形が映画を面白くしている。
また、店にやって来る客も老若男女、顔触れが多彩で、いわゆるオタク層とはまったく異なる所がユニークである。しかも、客もメイドも全員が方言なので、まったくメイドカフェという感じがしない。まるで田舎町の憩いの場という感じで、朴訥とした雰囲気に溢れている。何となく朝ドラの「あまちゃん」を思い出してしまった。
物語後半からは、いとと同じクラスの孤独な少女がフィーチャーされ、彼女との交流も描かれる。いとが勇気を出して言葉をかけたことをきっかけにして仲良くなるのだが、これも微笑ましく観れた。
作中で特に印象に残ったシーンは、いとがメイドカフェを探し歩く場面だった。普通であれば映像だけで語っても良いシーンなのだが、そこに彼女の津軽弁の独り言が被さるのが良い。この独り言が加わるだけで、このシーンは味わい深くなる。原作に基づいたものなのかもしれないが、上手い演出に思えた。
いとを演じた駒井蓮の好演も見事だった。彼女は津軽三味線を吹き替えなしで演奏し、津軽弁も流ちょうにこなしている。この役にかける意気込みが感じられた。
他に、黒川芽以演じる先輩メイドも”はすっぱ”な感じで適役と言えよう。メイドカフェの店長は物腰が和らかい性格なので、彼女は実質的に店を支える縁の下の力持ち的存在になっている。終盤、店が経営危機に陥ると、店長に向かってはっぱをかけるのだが、その頼もしさと言ったらない。余りにも堂々としているので思わずクスリとしてしまった。
また、いとの父親を演じた豊川悦司も味のある演技を披露していて良かったと思う。