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アトランティス

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「アトランティス」(2019ウクライナ)star4.gif
ジャンル戦争・ジャンルSF
(あらすじ)
 ロシアとの戦争が終結してから1年後、退役軍人のセルギーは戦友イヴァンと製錬所で働いていた。ところが、PTSDにかかっていたイヴァンは自死し、工場も閉鎖されてしまう。セルキーは、トラックで各地に給水活動をする仕事を始めるのだが…。

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(レビュー)
 ロシアのウクライナ侵攻が始まる以前に製作された近未来SF作品。戦後の焼け野原を舞台に、元軍人の苦悩を1カット1シーンで紡いだ重厚な作品である。

 ロシアとウクライナの戦争を知る今でこそ現実感のあるドラマに思えるが、製作された当時はそこまでの緊張感を世界の人々は感じていなかったのではないだろうか。しかし、両国の因縁には長い歴史があり、ソ連崩壊後に独立したウクライナでは、ずっとロシアと緊張状態が続いていたのである。それが一気に噴出したのが現在の戦争なわけで、そのことを知っていると本作が製作された意味というのも自ずと分かってこよう。SFだからと一蹴できないリアリティが感じられる。

 監督、脚本、撮影、編集はヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ。初見の監督さんだが、全編静謐なトーンに包まれた風格のある作品である。1カット1シーンのスタイルがシーンに臨場感と緊迫感をもたらしており、とりわけイヴァンが溶鉱炉の中に身を投げるシーンなどは大変衝撃的で思わず声が出てしまった。

 戦争の悲惨さ、無為さもじっくりと表現されている。
 例えば、戦死者の検死シーンは、淡々としているがゆえに、余計に居たたまれない気持ちにさせられる。
 また、地雷除去は10年から20年、汚染水が元に戻るには何十年もかかるという劇中のセリフも印象に残った。勝っても負けても、こうした負の遺産は後世に渡ってのしかかる。何となく東日本大震災の原発事故を連想してしまった。

 撮影はカッチリとした構図の連続で端正にまとめられており、中には目を見張るようなカットもあった。美しいネオンに彩られた夜の工場、溶鉱炉を屋外に排出する容器、人間の身の丈以上のタイヤを持ち上げるブルドーザー等、巨大なオブジェが人間のちっぽけさを強調し、これらダイナミズム溢れる映像の数々に驚かされる。

 ラストシーンも印象に残った。雨が降りしきる中、トラックに乗るセルギーとカティンにカメラがゆっくりと近づいていき、そのまま二人のラブシーンに繋がっていくという演出。しかし、実はそこは…というオチが、死と生の相克、ささやかな未来への希望を感じさせる。

 尚、本作でよく分からなかった場面が2点あった。一つは、映画の冒頭とラストを赤外線カメラの映像にした意味である。この演出の狙いが今一つ分からない。人間の体温を感知する部分は当然赤色に反応するのだが、これは戦場という死の世界における生命の崇高さを表したかったのだろうか?

 もう一つは、巨大なショベルに水を張って浴槽にするシーンである。微笑ましく観れて割と好きなシーンなのだが、全体の重苦しいトーンからすると少し異質に感じた。
[ 2023/09/23 00:22 ] ジャンル戦争 | TB(0) | CM(0)

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