「リフレクション」(2021ウクライナ)
ジャンル戦争
(あらすじ) 医師のセルヒーはウクライナ東部で激化する戦線に従軍医師として参加する。ところが、戦地に赴いた彼は人民共和軍に拘束され、拷問の末、過酷な仕事を強要されることになる。
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(レビュー) ロシアとウクライナの戦争が始まったのは2022年であるが、実はそれ以前から両国は深い因縁関係にあり、実際にはウクライナ東部では親ロシア派との間で小さな戦闘は始まっていた。本作は正にそんな緊張状態にあった当時の東部戦線を舞台にした映画である。
監督、脚本、撮影、編集は
「アトランティス」(2019ウクライナ)のヴァレンチン・ナシャノヴイッチ。前作「アトランティス」に引き続き、再びロシアとウクライナの戦争をテーマにしている。今回はSFではなく現代劇という所がミソで、リアリズムに拠った演出は前作同様、息苦しいほどの緊迫感を生み、戦争の悲惨さを画面にまざまざと焼き付けている。特に、拷問シーンが印象に残った。一部でボカシが入っている。
そして、今回も全てのシーンではないが、1シーン1カットのロングテイクが徹底されている。前作に比べるとスケール感という点では見劣りするものの、カッチリと決められた構図と濃密な陰影が画面を重厚にしたためている。まるで絵画のように完璧にコントロールされた画面設計は今回も健在だ。
尚、今回は画面に奥行きを持たせた構図が目に付いた。冒頭の子供たちのサバイバルゲームのシーンに始まり、病院の手術室、セルヒーの部屋が、1枚のアクリル板、窓ガラスといった”仕切り”を用いて画面の奥と手前に分断されている。極めつけはセルヒーを乗せた車が敵の襲撃を受けるシーンである。カメラは後部座席から彼らの恐怖を捉えるのだが、フロントガラスで画面の奥と手前が仕切られている。
こうした画面構図は明らかに意図して演出されているのだろう。観客は画面の奥で行われている事象から隔たれた場所。つまり、常に画面の手前側に置かれることになる。まるでその現場を目撃する傍観者的な立場に立たされることになるのだ。画面の中に放り込まれる感覚とはまた違った意味での臨場感が味わえた。
映画は、前半は延々とセルヒーの過酷な体験を見せつけられるので、正直かなりしんどいものがあった。
中盤以降は、捕虜交換で故郷に戻ることができた彼のプライベートなドラマに切り替わっていく。戦場体験のPTSDに悩まされ、離れて暮らす妻子との関係がシビアに描かれている。ある種浪花節的とも言えるドラマだが、前作とはガラリと違った作劇で新鮮に観れた。
本作の難は、登場人物の関係性が若干分かりづらいことだろうか…。セルヒーの親友でアンドリーという男が登場してくるのだが、彼についての説明が劇中ではほとんどなく、観ている方としては色々と想像を働かさなければならない。もう少し親切な説明があっても良かったように思った。