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658Km、陽子の旅

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「658Km、陽子の旅」(2022日)star4.gif
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 リモートワークでカスタマーサービスの仕事をしている陽子は、ほとんど自宅から出ない引きこもりの暮らしを送っていた。ある日、従兄がやって来て青森の父親の訃報を知らされる。陽子は葬儀に出るため彼の車に乗って青森を目指すことになるのだが…。

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(レビュー)
 引きこもりのコミュ障の女性が、父の葬式に出るために故郷を目指して旅をするロードムービー。

 陽子が外の世界に出ていくことで少しずつ社会との健全な繋がりを取り戻していくというドラマは、人間関係が希薄になりつつある現代社会において、とても大切なメッセージを放っているように思う。奇しくもコロナ禍に見舞われたこともあり、そのメッセージは更に大きな意味を持って訴えかけてくる。やはり直接顔を合わせて話すことは大切であると痛感させられた。

 ただ、そのメッセージは十分理解できるのだが、陽子が様々な人と出会うことで成長していくドラマは今一つ説得力が弱いという印象を持った。そもそもたった一夜でそこまで人は変われるものだろうか?という思いが先立ってしまい、観終わっても今一つ釈然としない思いが残ってしまった。陽子の本当の旅はこれから始まるのかもしれない。

 一方、陽子の旅のきっかけとなるのが長年険悪だった父の死である。両者は20年間疎遠で、父娘の縁は完全に途切れていた。本作のもう一つのテーマは、彼女がその父の死をどう受け止めていくかという”喪の仕事”と解釈できる。
 こちらについては見事な着地点を迎えたと思う。陽子の葛藤に上滑りするような所もなく、亡き父に対する後悔の念をしみじみと受け止めることができた。

 また、本作が上手いと思う所は、陽子と父の関係や彼女のバックストーリーをほとんどボカした点である。そこが乗り切れないという感想に繋がるのも分かるが、逆に観客夫々が自分に当てはめながら観ることができるように敢えてボカしているように見れた。陽子のように夢に打ち破れた者、人間関係に後悔を残す者なら、自然と感情移入できるのではないだろうか。そういう意味では、懐の深い作品とも言える。

 監督は「私の男」(2013日)「海炭市叙景」(2010日)「鬼畜大宴会」(1997日)の熊切和嘉。本作はTSUTAYA CREATORS' PROGRAMというツタヤが主催するコンペティションで選出された脚本を元に製作された作品だそうである。

 時折ファンタジックな演出が出てきて戸惑いを覚える個所もあったが、基本的にはじっくりと腰を据えた演出が貫かれ見応えを感じた。
 特に、後半の海のシーンを筆頭に、サービスエリアで出会うヒッチハイク少女とのやり取り、野菜を売る老夫婦との交流が印象に残った。旅の途中で出会う他の人々も夫々に何らかのドラマを抱えており、最後まで飽きなく観れるロードムービーに仕上がっている。

 ただ、冷静に考えると少し無理に思えるような箇所もあり、そのあたりには詰めの甘さも感じてしまう。
 例えば、陽子が従兄の車とはぐれてしまうシーンは、陽子が実家に電話をすれば済むだけの話ではないかという気がした。最初は電話番号を知らないのかと思ったのだが、後半で公衆電話から実家に電話をしていたので知らなかったというわけではない。ではどうして最初に電話しなかったのか?と不自然さを覚えた。

 また、劇中には東日本大震災の傷痕を描くエピソードも登場してくる。東北を目指すロードムービーなので触れずにいられなかったのであろう。しかし、実際に青森を目指すのにわざわざ常磐道を選択するだろうか?普通であれば東北道を利用した方が便利という気がする。

 キャストは何と言っても菊地凛子の好演。これに尽きると思う。終盤の独白は見事であるし、それ以外にも彼女の繊細な演技は見応えタップリである。
 熊切監督とは「空の穴」(2001日)以来のタッグと言うことだが、申し訳ないがその時には主演の寺島進の方ばかりに目が行って彼女のことは全く印象に残っていなかった。クレジット表記も今の菊地凛子ではなく”菊池百合子”だったというのもあるが、まさかその時の彼女がこうして日本映画界を代表する女優になるとは全く想像もしていなかった。そう考えるとこの協演には感慨深いものがある。
[ 2023/08/09 00:52 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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