共感できない主人公だったが、確かに捻くれるのも分かる気がする。
「ルシアンの青春」(1973仏伊西独)
ジャンル青春ドラマ・ジャンル戦争
(あらすじ) 第2次世界大戦時、ドイツ軍の占領下にあったフランス。青年ルシアンは病院で掃除夫の仕事をしながら、悶々とした日常を送っていた。父はドイツ軍の捕虜となり、母は地主に囲われている。地主の息子がレジスタンスに入ったことに触発され、ルシアンも入隊を希望する。しかし、にべもなく断られてしまう。その後、ドイツ警察の支部に連行された彼はレジスタンスの情報を売り飛ばした。これで組織の中で一目置かれる存在となった彼は、ドイツ警察に入り浸るようになる。ある日、スーツを新調するために上司に連れて行かれた仕立て屋でフランスという美しい娘と出会う。一目で恋に落ちるが、彼女はユダヤ人だった。父の苦労を見ている彼女はドイツ警察を憎んでいた‥。
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(レビュー) ドイツ警察の手先となった青年が辿る非情な運命をドライなタッチで描いた青春映画。
父の不在、母の浮気、夢も希望もない孤独の淵でルシアンは荒んだ青春時代を送っている。
冒頭で彼は小鳥を殺す。少しびっくりしてしまうが、その後も馬やウサギ、鶏といった動物達が殺され、あるいは死体となって彼の前に登場する。ルシアンはいずれも無表情でそれらを眺めるのだが、そこに彼の反抗心、行き場のない怒りといったものがおぼろげに見えてくる。
中盤では、珍しくフランスにほんの少しだけ笑顔を見せるのだが、どこか寂しげで心の底から喜んでいるようには見えない。極めてモラトリアム的だ。
また、後半ではドイツ警察に入った彼が市民に権力をかざし始める。虚勢を張っているようにしか見えず、明らかに彼の心の弱さ、稚拙さを証明するものだ。
このようにルシアンは殺伐としていて、無目的で、幼稚な青年である。見ていてとても共感できる主人公ではなかった。しかし、裏を返せばそれは若者の素の姿なのかもしれない。さすがにここまで過激な行動には出ないが、自分にも身に覚えのあるエピソードの一つや二つはあった。
感傷に浸って見る青春映画もあるが、本作はその真逆で、一歩引いて見るタイプの青春映画だと思う。若さゆえの”愚かさ”を心のどこかで懐かしみながら、それを遠くから見守る。そんなタイプの作品のように思う。
しかし、この映画は意外にも終盤で光輝く。ルシアンは初めて年相応の笑顔を見せるのだが、これは印象的だった。ここまでのドラマは全てこの笑顔を描くためにあったのではないか‥そう思うほど美しく撮られていて感動的だった。
ただし、その後の結末については今ひとつだった。
これでは余韻は残るかもしれないが見ていてスッキリとしない。むしろ全てを描いてくれたほうが作品のインパクトは出たように思う。このあたりは好みの問題かもしれない。
尚、当時のフランスの情勢を知るという意味でも興味深く見れる作品だった。フランス人でもドイツ警察の片棒を担ぐ者達がいたり、ユダヤ人でも献上金を納めることで商売をしている人間がいたり、色々と新しい発見ができた。