意志を貫くことの難しさをパワフルに描いた傑作。
サブキャラ峰岸の存在が光る。
「静かなる決闘」(1949日)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 戦時中、軍医の藤崎は野戦病院で手術中に指を切りそこから梅毒に感染してしまう。戦後、そのことを誰にも打ち明けず父が営む病院で働き始めた。彼には6年も付き合っている婚約者美佐緒がいた。結婚を拒み続ける藤崎に美佐緒は不審を募らせる。ある日、藤崎は治療用の注射を打っている所を看護士見習いの峯岸に見られてしまう。これをきっかけ彼は父に病気のことを打ち明けた。そこに病気をうつした張本人中田が現れて‥。
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(レビュー) 自らも病にかかった医師の苦悩を描いたヒューマンドラマ。
監督は黒澤明。藤崎役は三船敏郎。黒澤の前作「酔いどれ天使」(1948日)のヤクザ役で強烈な印象を残した三船が、本作では医師として登場する。しかも、前作で医師役だった志村喬と親子の設定というところが心憎いキャスティングである。
本作の三船は前作とは打って変わって、実に静かで生真面目な青年を演じている。このギャップが面白く観れるが、正直なところ「らしくない‥」と感じてしまう部分が多々あった。ただ、それまで押さえつけていた感情を一気に吐露するクライマックスシーンは多いに見応えがあった。最初はセリフばかりが先行して陳腐に感じたが、1カット1シーンの迫力とその熱演にグイグイと引き込まれた。
物語は非常にストレートで力強いものとなっている。婚約者美佐緒との結婚問題、病の元凶である中田に対する医師としてのスタンス、この2つをどう処理していくか?藤崎の葛藤が切実に語られている。その答えを導き出すラストは感動的であった。
また、重要なサブキャラとして看護士見習峯岸の存在も忘れがたい。
この物語は藤崎の葛藤を描くものであるが、もう一つは彼にいつも寄り添う峯岸の成長ドラマにもなっている。ダンサー崩れで肉欲の犠牲となった彼女は、全てのものに対して憎しみを募らせている。それが、正義の人藤崎と出会うことで心を入れ替えていくようになる。やがて、シングルマザーとなることで、彼女は人間として大きく成長していく。物語の進行とともに彼女の表情が輝いていくのが魅力的だ。特に、中田に対する彼女の怒りには共感を覚えた。もう一人の主役といっていいと思う。