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祭りの準備

オーソドックスな青春ドラマだが、ラストにはしみじみとさせられる。
祭りの準備 ニューマスター版祭りの準備 ニューマスター版
(2003/12/21)
江藤潤馬渕晴子

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「祭りの準備」(1975日)star4.gif
ジャンル青春ドラマ
(あらすじ)
 高知県の小村。盾男は脚本家になる夢を持ちながら銀行に勤める青年。父が愛人宅に移り住んだため、今は母と祖父と暮らしている。彼にはずっと想いを寄せている幼馴染涼子がいた。しかし、彼女は政治活動にのめり込み、盾男よりも強くて頼りがいのある運動指導者の方へ気持ちが傾いていた。悶々とした欲望は向かいに住む知的障害の娘タマミへ向かう。タマミは大阪でクスリ漬けにされた挙句、性の道具にされて帰ってきた可愛そうな娘だった。暫くするとタマミは妊娠した。誰の子供か分からなかったが、盾男の祖父が父親だと名乗り出る。強い嫌悪感を抱く盾男。そんな彼を悪友でタマミの兄利弘が歓楽街へ連れ出す。少しは気晴らしになった。ところが、その利弘が取り返しのつかない事件をおこしてしまい‥。
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(レビュー)
 閉塞的な小村を舞台に、東京に出る夢を持った青年の悶々とした日常を、時にコミカルに時に叙情的に綴った青春映画。

 何と言っても、盾男の立志を描いたラストにしみじみとさせられた。この時の悪友利弘のリアクションが実に良い。かなり屈折した青春ドラマだが、意外にもラストは常道でそこがこの映画の良い所だと思った。

 物語は盾男と周縁の人々のエピソードで構成されている。盾男の悶々とした日常を綴るのがメインエピソードで、そのほかに利弘が辿る悲劇的な末路、タマミを巡る騒動、女関係のトラブルが絶えない父と盾男の関係、実家に縛りたがる母と盾男の関係等が綴られている。ロマンス、友情、独立といった青春映画ではおなじみのテーマがまんべんなく散りばめられている。タイトルの「祭りの準備」とは何も本当に祭りの準備をするわけではなく、青年が独り立ちする前の通過儀礼のことを言っている。

 各エピソードはいずれも悲劇的なものであるが、描写自体の陰惨さは薄い。むしろ喜劇的な演出が多々あり面白く見ることが出来た。よく悲劇と喜劇は表裏一体と言われるが、この映画を見るとその言葉の意味が良く分かる。
 例えば、タマミのエピソードは障害者を食い物にした非道なエピソードであるが、ある時を境に彼女が別人のような変身を遂げることで、盾男の祖父にとっては悲劇となり、彼女の家族にとっては喜劇となる。このような悲喜劇はこの映画の中では他にも幾つか見られる。明確な線引きで一つの事象を捉えない。そこがこの映画で面白いと感じるところだ。

 もう一つこの映画で面白いと思ったところは、地方特有の空気感が画面から感じ取れる点である。地方の農村は近隣との付き合いは緊密で、鍵いらずの近所付き合いが平気で成されている。現代ではちょっと考えにくいライフスタイルであるが、それが映画全体を覆う独特の空気感によってリアルなものとして受け止められる。
 タマミが野放しにされていることも、盾男の父が平然と愛人宅を転々とすることも、店先で母子が近親相姦にふけることも、世間体や醜聞を気にしないアバウトなライフスタイルの昭和の農村では”ありえる”ものとして見ることができるのだ。

 本作を見て、今村昌平監督の「神々の深き欲望」(1968日)や「楢山節考」(1983日)といった作品が思い出された。今村監督も地方の農村を舞台にした作品を撮る事が多かった。本作にもそれに共通するような泥臭い農村体臭が感じられる。おそらく今となっては再現不可能な空気感だろう。この独特な空気感に魅了された。
[ 2008/10/26 01:30 ] ジャンル青春ドラマ | TB(0) | CM(0)

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