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トウキョウソナタ

リアルと寓話の中間という感じがして中々楽しめた。ただ、後半の展開が‥。
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「トウキョウソナタ」(2008日オランダ香港)星3
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 東京の小さな一戸建てに住む佐々木家。一見するとごく平凡な家族だが、実は様々な問題を抱えている。ある日父が突然リストラされる。会社に行く振りをしながらハローワークに通うが、中々思うような仕事に就けなかった。母は良妻賢母に徹しているが、ある時ふと自分の人生がこのままでいいのかという疑問に駆られる。大学生の長男は朝帰りの自堕落な日々を送っている。小学生の次男は教師に対する不信感から、ピアノ教室の先生に憧れを抱くようになる。彼等は同じ屋根の下に住みながら心はバラバラだった。
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(レビュー)
 不景気によるリストラ、夫婦の危機、断絶した親子関係等、社会風刺がこの映画には盛り込まれている。見かけはオーソドックスなホームドラマだが、蓋を開けて覗いてみると案外ブラックで歯ごたえがある。

 監督脚本は黒沢清。この監督の作品は必ずと言っていいほど、人間の奥底に潜む悪心がテーマに関わってくる。多くは心霊現象のような形で顕現することでホラージャンルに偏るのだが、本作は珍しく家族をテーマにしている。しかし、ホームドラマの体裁を取りながら、やはり要所要所にホラーテイストが入っているところがいかにも黒沢清らしい。一番怖いと思ったのは、家族全員が夫々に”嘘の自分”を演じている所だ。己の肥大したエゴ、欲心を隠し持ちつつ無関心を装い続ける。

 失業した父は家庭の中で威厳を保とうとする。しかし、リストラされたことを家族に隠しているわけだから、それはただの虚勢に過ぎない。もはや、社会的には完全な落伍者となった彼は、最後の砦。つまり家庭の中にしか自分の存在意義を求められなくなっていく。家族はバラバラではいけない。皆が互いを思いやって一つにまとまることこそが理想だ、と嘯く。しかし、そんな彼の思いをよそに、他の者は皆、家庭の外に自分の存在意義を求めていく。

 母は主婦業をしながら外に連れ出してくれる誰かを待っている。長男は閉塞した今の日本から抜け出そうと海外へ目を向ける。次男は傲慢な大人達に嫌気がさしてピアノ教室に癒しを求める。
 父が守ってきたと自負する家族の姿はそこにはない。すでに家族の繋がりなどとっくの昔に無くなっていた‥ということに父親は気付いていない。そこが実に恐ろしい。

 少々カリカチュアが過ぎるという気はするが、現代日本において、多かれ少なかれ彼等のように秘密と嘘を上塗りしながら「家族」を演じている‥という事例はあるのではないだろうか?佐々木家の崩壊は怖くもあるが、どこかリアルにも見えてくるから面白い。

 実は、この虚構と現実の乖離は黒沢作品における一つのメインテーマであるように思う。過去の作品で言えば、この世ならざる存在、例えば幽霊であるとか、ドッペルゲンガーであるとかいった類の物を信じるか信じないか。その二律背反で、いわゆるホラージャンルが語られてきた。今回は、この世ならざる存在が”家族”というわけである。したがって、今回も黒沢清がテーマにしていることは一貫していると思う。虚構と現実の果てに見る人間のあやふやさ、滑稽さといった姿にピンポイントで焦点が当てられている。

 ただ、興を削がれる事が2点あって、それに関しては残念だった。
 一つは長男に関する後半のエピソード。もう一つは母に起こる事件である。
 ギリギリのラインでリアルさを保っていたこの映画が、この二つで一気に虚構の出来事になってしまったような気がする。すでに現実的な問題から乖離してしまった後では、このラストにどうも作りもの的な安易さを覚えてしまった。
 そもそもこの佐々木家という家族は”ありそう”で”ない”家族なのだから、それを”なさそう”で”ない”ものにしてしまったことは非常に勿体無いと感じた。
[ 2008/11/28 00:27 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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