デ・パルマがイラク戦争における惨劇をを大胆に告発した野心作。
「リダクテッド 真実の価値」(2007米カナダ)
ジャンル戦争・ジャンル社会派
(あらすじ) 2006年、イラクのサマラ。映画学校志望の兵士サラサールは、検問所の駐留米兵の日常をビデオカメラに収めていた。同じ班にはマッコイ、フレーク、ゲイブ等がいる。ある日、フレークが誤って民間人の乗った乗用車を銃撃してしまう。サラサールは恐怖するが、発砲した当の本人は任務を遂行しただけだと言う。次第に狂気に飲み込まれていく兵士達。やがてカメラは彼らの凶行を捉えていく‥。
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(レビュー) 実際にイラクで起こった事件を元に、狂気に駆り立てられていく兵士達の姿をドキュメンタリータッチで描いた異色作。
一人称視点による映像が映画の大半を占めるというユニークな作品になっている。サラサールのカメラ映像、基地の監視カメラ、テレビの報道番組、ネットの投稿動画等、ありとあらゆる映像を駆使しながらストーリーが展開されていく。むろんこれらは実際の映像ではなく再現された映像である。中には少し作りすぎと思える画もあったが、中々緊迫感のある映像になっている。リアリズムに寄せた映像演出にこだわりが感じられた。とりわけ、後半に起こる惨劇は生々しく撮られていて衝撃的だった。
監督・脚本はB・デ・パルマ。映像にこだわる監督だけに、こういった実験的なスタイルはいかにも氏らしいと思った。ただこれまでと違うのは、過度の技巧偏重主義を捨て去った点で、全てをありのままに撮るというドキュメンタリー志向に変わった所である。スタイルはこれまで以上に斬新だ。
描かれるテーマはかなり野心的である。米兵による凶悪犯罪の現場をカメラが追いかける‥という内容で社会派的な目線が感じられた。
今回の戦争は、アメリカ政府が対テロを大義名分として始めた戦争である。しかし、それはアメリカ側の一方的な言い分に過ぎず、そもそも戦争というもの自体に正義など存在しないことは始めから分かりきっていることである。不都合な真実は隠蔽され何も信じられなくなっている現代、それを告発するのはメディアしかない。しかし、そのメディアでさえ現状では口を噤んでいる有様である。そこでデ・パルマはこの映画を撮ったと言う。映像メディアに関わる者としての使命感だろう。その思いは確かに画面からひしひしと伝わってきた。
但し、ケチをつける気はないが、このような事件は戦争には付き物であるし、この映画はあくまでドキュメンタリータッチの”フィクション”に過ぎないわけで、本当の意味でのリアルを写しているか?と言われると疑問である。本物のように見せるための”演出”がそこに存在する以上、これもまたリアルと言うことは出来ない。どうも俺はそこに引っかかってしまった。この事件を真のドキュメンタリーとして映像化した作品があれば、当然本作はかすんでしまう。
ただ、現状では様々なしがらみがあってそれが出来なかったからこうして再現フィルムという形で作ったのであろう。少なくとも、伝えるべきメッセージは明確に打ち出されていると思う。
また、あのデ・パルマが‥という意外性もあって、興味深く見ることが出来た。