取り扱い注意的なところがかえって魅力。アングラ的な臭いがプンプンする作品である。
「ニュー・ジャック・アンド・ヴェティ」(1969日)
ジャンルコメディ
(あらすじ) 真面目なサラリーマン、ケンイチが社長令嬢と婚約することになり、彼女の家で両家を交えた食事会が開かれた。そこにはケンイチの叔父夫婦も出席した。ところが、こともあろうに酔った叔父が社長に暴言を吐き、すぐ隣で夫婦でセックスを始めてしまった。実は、叔父の妻は社長の秘書をしていて社長と不倫関係にあったのだ。社長は嫉妬に駆られ若い肉体に対する妄言を吐露する。それを聞いた社長夫人は怒り心頭になる。呆気に取られるケンイチをよそに、婚約者であるショウコは突然狂ったように笑い出した。
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(レビュー) ブルジョワ一家の崩壊をナンセンスな笑いと狂気で描いたコメディ。
理想を絵に描いたような家族が後半、突如として酒池肉林の世界に埋没していく。酒に酔った叔父が意味不明な言葉をわめきだし、嫉妬に狂った社長は妄想を暴走させ、ショウコは突然高笑いを始める。更に、唯一まともだと思っていたケンイチの母親までもが、意味不明に「象さんの歌」を歌いだす。一体この家族は何なのか?常軌を逸した行動をとる彼等をケンイチは傍観するしかない。というか、リアクションのしようがない。まともな神経を持っている者ならば、この異様なテンションについていくのは無理な話だ。したがって、見る方としてはほとんどケンイチの気分である。余りの不条理の連続に呆気にとられるしかない。
ただ、確かに訳の分からない映画なのだが、その意味不明な所に奇妙な面白さも感じてしまう。少なくとも、通り一辺倒に家族の崩壊を描いたドラマに比べたら何倍もの面白さを感じる。
大体によって、人前で平気でセックスを始める叔父夫婦に羞恥心というものは無いのか?
妄想、強迫観念を肥大させる社長、お前は中学生か?
何故「象さんの歌」をみんな知らないのか?
天から聞こえてくる声は一体誰のものなのか?
そもそもジャックもベティも出てこないじゃないか?
画面上で繰り広げられるアングラ小劇団のような描景に圧倒されながら、くだらない突込みを入れていくうちに、不思議と魅了されてしまう自分がいた‥。
考えてみれば、人間がいかに社会の規範に則って生きる存在だとしても、化けの皮を一枚剥がせば所詮”動物”に過ぎないわけである。他の野生動物と同じように欲望のままにセックスをするし、エゴイスティックな捕食者ともなる。この家族のように表面上は澄ました顔をしていても、一度肉欲に溺れ禁忌の虜になれば、常識などという”建前”は一気に崩れてしまうのだ。それが人間の本質なのである。
この映画はそれを描きたかったのだと思う。人間のプライドをとことん貶めて文字通り〝アニマル”に仕立てながら、このブルジョワ一家に痛烈なアイロニーを発したかったのだと思う。
ここまでハチャメチャな作品を撮ったのは日本映画界の異端児、沖島勲監督。彼はこの後、テレビアニメ「まんが日本昔ばなし」のメインライターを務めたというから驚きだ。この二つがまったく結びつかない。一体どういう感性をしてるのだろうか?