毒気タップリに描く戦争コメディ。戦車の暴走シーンが笑える。
「バッファロー・ソルジャーズ 戦争のはじめかた」(2001英独)
ジャンル戦争・ジャンルコメディ
(あらすじ) 冷戦真っ只中の1989年。ドイツの米軍基地は平和ボケに陥っていた。補給大隊所属のエルウッドは、闇売買やヘロインの精製をして退屈な日常を紛らわしていた。そこに厳格なリー曹長が指揮官としてやって来る。早速、彼は問題児であるエルウッドをマークする。一方、エルウッドは彼の愛娘をデートに誘い反抗してみせる。こうして二人の確執は増していった。そんなある日、エルウッドの闇商売に問題が生じる。
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(レビュー) アメリカ陸軍内部の腐敗を痛烈に皮肉ったブラックコメディ。
似たような設定でR・アルトマン監督の「M★A★S★H マッシュ」(1970米)という傑作があるが、本作を見てそれを思い出した。さすがに「M★A★S★H マッシュ」を見てしまうと薄味という感じがしてしまうが、それでも中々面白く見れた。
武器の横領にドラッグ精製、反人種差別による暴行、公文書偽造、挙句の果てに上官は昇進しか頭にない能無しときている。素行不良の劣等生の溜まり場に熱血教師よろしく鬼教官がやって来るという筋書きは、ほとんど学園不良漫画のようなノリで展開されていく。但し、学園マンガと違うところは彼らは武器を持っているという点だ。彼らに人殺しの道具を持たせたらどうなるか‥?ある程度は察しはつくと思う。
前半の戦車の暴走シーンとクライマックスの銃撃戦はかなり強烈だ。いずれもラリった頭が起こした凶行で、本当にこんな事があったらイヤである。
‥と思ったら、驚くことに本作は実話が元になっているという。果たしてどの程度脚色されているのか分からないが、少なからず似たような事があったのだろう。そう考えると益々怖くなってくる。
メッセージも明快に伝わってきた。
劇中でニーチェの「平和な時に戦争は自ら戦争をする」という言葉が引用されている。これはどういう意味だろうか?
エルウッドとリー曹長の確執、バーマン大佐のつまらないプライドが起こす演習、ノールに負わされた任務。これらは皆ある意味で”戦争”とみなす事が出来よう。国籍や民族の異なる者同士が銃を持って戦う‥という意味での”戦争”ではない。人間の虚栄心、悪心に焦点を当てた”戦争”。つまり、個人対個人の争い、あるいは軍内部における競争、そういった所で行われる広義的な意味での”戦争”だ。「平和な時に戦争は自ら戦争をする」という言葉は、平和に安住しても人間は生来的に戦争してしまう生き物なのだ、という事を皮肉的にに表した言葉だと思う。正にこの基地では”戦争”が行われている。人は戦争をやめられないのか?それを見る側に問いているかのようだ。
本作は基本的にブラック・コメディとして楽しめる作品だが、こうした重い問題提起も成されている。単なるコメディとして括る事の出来ない中々骨のある作品だと思う。
また、サスペンス的な娯楽要素も盛り込まれている。途中で登場するミスリードの存在にはまんまといっぱい食わされてしまった。サスペンスとして見ても中々良く出来ている作品だと思う。