過酷なスラム街と浪花節の組み合わせが意外。
「ツォツィ」(2005南アフリカ英)
ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 南アフリカのスラム街。ツォツィ(不良)と呼ばれる少年はギャング団を結成し窃盗を繰り返していた。ある日、仲間が殺人を犯してしまう。自暴自棄になったツォツィは豪邸の前で高級車を強奪し、追いかけてきた主婦を銃で撃って逃走した。ところが、後部座席に生まれたばかりの赤ん坊が乗っていて驚く。今更見捨てることが出来ず、その赤ん坊を近所のシングルマザーに預けるのだが‥。
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(レビュー) スラム街に生きる不良少年達の姿を描いた青春ドラマ。
ツォツィは暴力を振るう父から逃れるようにしてストリート・チルドレンに落ちぶれた少年である。それが期せずして誘拐した赤ん坊に過去を投影し、己の人生を見つめ直していくようになる。
実に浪花節的なドラマであるがこれが予想以上に泣かせてくれる。スラム街というリアルな背景がドラマに説得力をもたらしていることが大きい。ツォツィの葛藤がシビアに伝わってきた。
また、彼のバックストーリーに社会派的なメッセージが強烈にアピールされている所も本作の見所だと思う。言わば、彼等ストリートチルドレンは貧困社会がもたらした悲劇の産物である。彼等は生まれながらにツォツィ(不良)の烙印を押され、荒んだ生活を送る事を余儀なくされている。F・メイレレス監督の衝撃作「シティ・オブ・ゴッド」(2002ブラジル)でも描かれていたが、連綿と続く劣悪な社会的構造は容易に改善することはできない。この映画を見てもその事がよく分かった。
リアリズムな背景とは裏腹に映像はかなりスタイリッシュである。賛否あるかもしれないが、”見せる”演出ということで言えば卓越したセンスを感じさせる。
少年達のキャラクターも夫々に個性的で良かった。中でも、やはり主役のツォツィが一番印象に残る。基本的にベビーフェイスなのだが、善悪を巡る彼の葛藤に奥行きをもたらすという意味からすればこの外見は奏功している。赤ん坊に注ぐ眼差し、シングルマザーへの求愛の眼差しは純真さに溢れている。彼の辿ってきた過酷な運命を考えると、その眼差しには切なくさせられた。
ところで、ハリウッド映画にはベビーシッター物というジャンルがあり、一時流行したものである。C・コロンバス監督の「ベビーシッター・アドベンチャー」(1987米)やコーエン兄弟の「赤ちゃん泥棒」(1987米)等がそうだ。同じベビーシッター物でもそちらは完全にコメディ作品である。赤ん坊の面倒を見る大人たちが様々なトラブルに巻き込まれる姿が面白おかしく綴られている。一方で今作はかなりシリアスなドラマである。同じ設定でもまったく違う映画になってしまうところが興味深い。これもお国柄の違いだろう。