インディペンデント映画だが緊迫感のある作品で面白かった。
「14歳」(2006日)
ジャンル人間ドラマ・ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 中学校の女性教師深津は、14歳のときに学校を放火し教師を刺したことがある。今はカウンセリングを受けながら教壇に立っている。ある日、深津は教え子に不用意な一言を発してしまい、生徒達から虐めを受けるようになる。一方、当時の同級生杉野は、ピアニストになる夢を挫折して測量技師になっていた。上司の頼みで近所の中学生にピアノを教えることになる。ある晩、杉野は危うく少年強盗に襲われそうになる。そんな二人が、偶然再会し夫々に自分の過去と向き合うようになっていく。
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(レビュー) 子供達とそれを見守る大人達の苦悩をシリアスに追った作品。
イジメの問題、教師と生徒のディスコミュニケション、崩壊した親子関係といったテーマが深く掘り下げられている。製作サイドに真摯さを感じた。
学校の問題は様々な事情が絡まるので難しい問題だ。本作では容易に解決を提示せず、こうあるべきではないか?という提言に留められているのだが、そこにはかすかなポジティヴなメッセージが込められていてホッと安堵させられた。終始閉塞感が漂うドラマなので、見ていて決して気分が晴れるわけではないが、この提言には幾ばくかの救いが感じられる。
物語は教師の物語、生徒の物語、ピアノ講師の物語の3つに分けられると思う。
まず、教師の物語は女性教師深津とベテラン教師小林のドラマになる。二人は全くタイプの異なる教師である。深津は包み込むような愛情で生徒達に接する。ところが、不用意な一言を発したばかりにその優しさが仇となり、生徒たちから反感を買うようになる。彼女は学生時代に傷害事件を起こしており、それが罪の意識に重くのしかかってくる。これは教師のストレス、精神疾患といった問題に深く切り込んだエピソードで見応えがあった。
一方の小林は強権的な指導方針を持った教師だ。生徒達を上から押さえ込もうとする。彼のバックストーリーも中々魅力的だが、ここでは主人公である深津との対位を示すべくサブストーリー的な扱いで、若干ドラマ的には弱い。悪く言えば、中途半端な料理の仕方と言うことになる。ただ、クライマックスとなる野球部の少年との対峙では、演じる香川照之の圧倒的な存在感でグッと画面にひきつけられた。本作はほとんどがマイナーな新人役者でキャスティングされているが、やはりこういった玄人俳優がいると画面もグンと引き締まる。
生徒の物語は、更に三つのエピソードに分けられる。バレエを禁止された女子生徒とその親友のエピソード。抗争を繰り返す男子生徒達のエピソード。合奏部を舞台にした淡いロマンスのエピソード。以上の3つが同時進行していく。それぞれに年相応の悩みが画面から伝わってきて中々良かった。ただ、昨今富に問題視されるインターネットの弊害を持ち込めなかった所に不満が残った。
ピアノ講師の物語は杉崎のドラマになる。ピアニストになる夢を諦めた自分にピアノを教える資格など無い‥そういう思いから、彼はこのレッスンに積極的に臨めない。しかも、教え子はお世辞にも才能があるとは言えない。無理やり母親に弾かされているのだ。杉崎はこの少年に昔の自分を重ねて見てしまう。そして、まるで過去の自分を殺すように、残酷な言葉で少年を傷つけてしまうのだ。この心理も興味深い。
子供に接する際、過去の自分を想起しながら‥という大人は多いと思う。例えば、虐められた経験のある大人は子供に対して反動的に虐めを行ってしまうとか、将来の夢に挫折した大人は子供に一方的に夢を託してしまうとか。本来大人は子供本人のことを第一に考えてあげる必要がある。しかし、過去の自分を重ねて見てしまうことで、彼等の主張を押し潰してしまう‥そんな親、大人たちは案外多いような気がする。子供にどう接するのが一番いいのか?その難しさを改めて考えさせられる。
映画はこれら3つの物語と夫々の登場人物が絡まり合いながらが展開されていく。かなり大風呂敷を広げた群像劇になっているが、複雑な人間関係を散漫にならず上手くまとめ上げていると思った。監督と脚本は”群青いろ”というユニットでこれがデビュー作だという。ご都合主義な展開(再会シーン等)も多少あるが、デビュー作とは思えない完成度である。
また、演出で面白い‥というか奇妙と思ったことが一点ある。それは、人物の背後を捉えたカットが異様に多いということだ。実は、冒頭のシーンを含め背後からの凶行を被害者側から捉えたアングルが3度登場する。これは明らかに狙った演出だと思う。人物の背後が映し出されるたびに、誰かがナイフで襲ってきやしないか‥という不安に駆られた。「来るぞ、来るぞ」と匂わせるホラー的演出である。小鳥を焼き殺そうとする残酷なシーンも出てくるし、虐められっ子の恨めしい目のクローズアップもかなり不気味だった。ある部分でこの映画はホラー映画的な作りになっているところが奇妙だった。
そういえば、この映画を見ている最中、監督で主演も果たした廣末哲万の目がかすかに狂気を帯びているように見えたのだが、案外この人はそういうキャラクターをやらせるとハマるかもしれない。