メッセージ性の高い実話のドラマ。豪華キャストが見応えある。
「さすらいの航海」(1976英スペイン)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 1939年5月、ナチス政権下のドイツ。900余名のユダヤ人難民を乗せた大型客船がキューバに向けて出航した。名家の夫婦、子供達との再会を望む母親、病に倒れる老夫婦、レジスタンスの青年、精神薄弱の元弁護士とその家族達、様々な思いを乗せて航海が始まる。ところが、そんな彼等に不安が押し寄せる。同乗するナチス親衛隊の嫌がらせが始まったのだ。船長のシュレーダーは目に余るその行動を厳しく戒め、乗客達の安全を保障した。その頃キューバでは難民を受け入れる準備態勢を整えていた。ところが、予期せぬ事態でそれが不可能になってしまう。
goo映画映画生活ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) ドイツから亡命したユダヤ人達が辿る悲劇をオールスターキャストで描いた実話の物語。
映画は、船上のシーンとキューバのシーンのカットバックで進行していく。
船上のシーンは多彩な人物が織り成すグランドホテル形式のドラマになっている。登場人物が多いが、序盤のパーティーシーンでおおよその所を簡潔明瞭に紹介しているので、すんなりとドラマに入り込むことが出来た。
ユダヤ人と言っても多種多様で千差万別である。職業や出自によって彼等は微妙に立場を異にする。弁護士や医師といった割と恵まれた層と、下町で暮らしていたような庶民との間では、同じユダヤ人でも考え方や文化、価値観が全く異なる。時に衝突することもあるのだが、この辺りの人間ドラマが面白い。
そんな中、ユダヤ人少女アンナとドイツ人船員マックスのささやかなロマンスは風情があって良かった。少し残念な結末を迎えるが、ドラマチックで見応えがある。
一方、キューバのシーンは終始サスペンスタッチで進行する。ドラマの中心となるのは、亡命者の入国許可を取り付けようとするユダヤ人救済機関の奔走劇になる。大物政治家、船会社の重役、有力実業家を相手に、腹の探りあい、駆け引きがスリリングに繰り広げられている。題材が題材だけにヒロイック過ぎるとヒューマニズムの押し売りになりかねないが、描写がドキュメンタリズムに拠っているため、余り嫌らしさを感じさせなかった。このあたりの作りは中々巧みである。
尚、ここではあるユダヤ人の縁故者にまつわる数奇なエピソードが登場してくるのだが、ここは本作一番の泣き所だった。
結末についてもヒロイックに走り過ぎていない所が良い。あっさりとした印象も受けるが、実話がベースという事を考えればこれはむしろ正直な描き方だろう。
ユダヤ人救出を描いた映画で最も印象に残っているのはスピルバーグ監督の「シンドラーのリスト」(1993米)だ。本作もそれと同じコンテクストの上に成り立つ作品だと思う。この手の作品では、人間の尊厳というメッセージが重要になってくるが、そういう意味では、乗客を守る立場を最後まで貫き通した船長と難民の受け入れに奔走したユダヤ人救済機関のモリスは、本作における”シンドラー”ということになろう。彼等の姿にはっきりとしたメッセージが読み取れて、隠れた歴史の1ページを垣間見た思いである。
尚、今回見たのは3時間弱の長尺版の方である。現在はビデオのみのパッケージ化だがそちらは短縮版になっている。