ストイックな作りが見ごたえあり。ただ欲張りすぎたかな‥という印象。
「シリアナ」(2005米)
ジャンル社会派・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 引退間近のCIA工作員ボブはある指令を果たすためにベイルートへ飛んだ。その頃、ワシントンでは石油利権を巡って巨大企業の合併話が持ち上がる。その調査に臨んだ若き弁護士ベネットは、意外な事実にぶち当たる。合併話の背景では石油工場勤務者の大量解雇が敢行されていた。パキスタンから出稼ぎに来ていた青年ワシームもその煽りを食らい路頭に迷う。一方、企業コンサルタントをしているブライアンは、中東の石油産油国の若き王子ナシールに接近する。その最中に不幸な事故に見舞われるが、これをきっかけに彼はナシールの相談役に雇われ王位継承を巡る争いに巻き込まれていくようになる。
DMM.comでレンタルするgoo映画映画生活ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) 石油利権を巡って様々な人間が複雑に絡み合う社会派群像サスペンス作品。
全部で4つのエピソードが展開していくが、終始緊張感が持続し飽きなく見れた。但し、中東情勢や政治的陰謀に関する説明は不足気味で、かなり難解な映画になっている。ストーリーを追いかけていくだけで手一杯という感じだ。これが仇となり映画的なカタルシスは失われてしまっている。これは、石油に群がる巨悪に戦いを挑む正義の人々の物語である。エピソードを絞って描けば映画的な興奮に満ち溢れた傑作になっていたかもしれないが、色々な要素を織り込んだせいで印象としては散漫になってしまった。かろうじて、ボブの戦いとベネットの戦いにそのメッセージが感じられたが感銘を受けるまでには至らなかった。
監督脚本は「トラフィック」(2000米)の脚本で注目されたS・ギャガン。「トラフィック」同様、複数のエピソードを複雑に交錯させる構成だが、インパクトという点では落ちてしまう。
CIA工作員ボブのエピソードはスパイ劇のようなテイストで、演じるG・クルーニーの熱演は見事である。家族に見放された孤独な中年男という役どころで、それまでのプレイボーイというイメージを良い意味で裏切ってくれた。嘆息交じりのセリフに、狼狽した男の心情を哀愁タップリに吐露している。
ワシントンのエピソードは、社会派サスペンス的なタッチになっている。正義の弁護士ベネットが企業家相手に孤軍奮闘の戦いを見せる。この顛末には何ともやるせない思いにさせられた。
ナシールのエピソードは、「エデンの東」(1954米)のような家族の愛憎ドラマである。ナシールと父の軋轢がメインとなるが、その一方で彼の片腕となるブライアンの家族ドラマも描かれている。映画全体の最後を締めくくるのがこのエピソードだが、これにはホッと安堵させられた。
パキスタン人青年ワシームのエピソードは、テロがどうして起こるのか?その経緯を語っている。しかし、映画の中の”1つのエピソード”として描くには、問題が問題だけに語りつくせない部分が多いと思う。本来ならこれだけで映画1本を撮れてしまうくらいに奥深いテーマを孕んでいるはずだ。先だって見た「パラダイス・ナウ」(2005仏独オランダパレスチナ)との比較から言えばこじんまりとした物に写った。