強く逞しい女性像が印象に残る。
「火火(ひび)」(2005日)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 女性陶芸家清子は女手一つで二人の子供を育てている。貧しいながらも、陶芸の道を究めんと日々窯焚に明け暮れていた。数年後、その苦労が報われ陶芸家として成功する。しかし、それと引き換えに彼女は大切な家族を失ってしまった。元々犬猿の仲だった娘とは絶縁状態になり、彼女の跡を継いで陶芸家を目指していた息子賢一は白血病に倒れてしまう。
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(レビュー) 女性陶芸家として活躍する一方で、白血病の息子のために骨髄バンク創始に尽力した実在の女性、神山清子の物語。どこまで脚色されているか分からないが、己の信念を貫き通す清子の姿は天晴れである。
彼女は二人の子供に母親らしい事を一切してこなかった。育児よりも陶芸の修練に明け暮れる。当の子供達からしてみれば酷い母親である。娘は反発し高校卒業と同時に家を飛び出して行った。しかし、それでも清子は陶芸の道こそわが命‥を貫くのである。
その良し悪しは別として、このドラマの中で清子は母親ではなく父親のように存在していると思った。女性でありながら厳しい男権社会、陶芸界に飛び込んでいくわけだから、負けん気の強い男勝りな性格が伺える。そんな職人としての清子を見て、息子・賢一も同じ道を志すようになる。息子の将来を指針する清子は、明らかに母親というよりも父親のように存在している。
しかし、そんな彼女を大きな不幸が襲う。賢一の白血病だ。
この映画で面白いと思った所は、この不幸をきっかけに彼女が段々と父親から母親に変化していく点である。賢一を看病しながら骨髄バンク設立のために各地を奔走する。自ずとその姿から母性愛というテーマが見て取れる。
後半に行くにつ入れてプロパガンダ臭が匂うのは残念だったが、実話がベースという大前提があるので一定の説得力は備わっており、陳腐な難病物として料理しなかった所は作り手側の誠意だろう。実に力強いドラマに仕上がっている。
また、清子を演じた名取裕子の演技も作品の説得力に大きく貢献していると思った。シリアスで陰鬱になりがちなドラマにあって、明るく振る舞う彼女の妙演が光る。こういうのは悲壮感を過剰に演出すれば押し付けがましく映り、シラけてしまうものである。それを中和するかのように、名取裕子は敢えて自然体な演技でクスリとさせるような笑いを各所に振り撒いている。
例えば、彼女は時々意地悪なブラックジョークを平気な顔で言い放つ。周囲の人間は困り果てたリアクションをするしかないのだが、彼女はそれに対してどこ吹く風とそっぽを向く。もし実社会で付き合うとしたら少し躊躇してしまいたくなるような女性だが、映画になるとそこが痛快であり面白い。
逆に言うと、周囲に気を使わず自分の思った事を何でも曝け出してしまうから、彼女はここまで強くいられるのだろう。いわゆる世間から逸脱したアウトローとして、清子が放つキャラクターは鮮烈な印象を残す。